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空前絶後の記録で幕を閉じた20世紀の日本競馬

 春秋の天皇賞に、宝塚記念、ジャパンCと輝くタイトルを総ナメにして臨んだ有馬記念。挑戦者の立場だった前年とは違い、今度は“絶対王者”として迎え討つ立場である。

 全馬が敵だった。絶好のスタートを切ったが、すぐに包囲網を形成され、前後左右にぴったりと他馬が張りつく展開。馬群の奥に押しやられてしまう。勝負どころでも動くに動けず、直線に向いた時点でまだ馬群の最後方だ。中山の直線は短い。万事休す、か――。

 否、ここからが本領発揮とばかりに、オペラオーはわずかな隙間を突いて脚を伸ばす。グイグイと馬群を割り、残り数十m。凄い気迫で前の馬を捉え先頭に立つと、“競ったら絶対に負けない”オペラオーの勝負根性がここでも炸裂。外から迫るメイショウドトウをハナ差抑えてゴール板を駆け抜けた。秋のG1グランドスラムは史上初。20 世紀の日本競馬は、テイエムオペラオーによる空前絶後の記録で幕を閉じたのだった。

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メイショウドトウを抑えて有馬記念を制したテイエムオペラオー ©文藝春秋

 さまざまなインタビュー記事を見ると、廐舎関係者は口をそろえて「賢い馬だった」「頭がいい馬だった」と語っている。派手さのない勝ちぶりは、まさしく賢さの表れなのだろう。レコードも、大きな着差も無用。何が「勝ち」なのか、どう動けば勝てるのか――オペラオーは、競馬の何たるかを完璧に理解していたのだ。

 3歳時からオペラオーの強さを見出していた“ミスター競馬”こと野平祐二氏は、この有馬記念の後、自らが育てた名馬シンボリルドルフを引き合いに出してこう語ったという。「こんなに凄い競馬をする馬は見たことがない。もはや、ルドルフを超えたと言われても私は反論しない」

 誰がなんと言おうとも、名伯楽のこの賛辞が最高の勲章だ。

(執筆・五十嵐有希)

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