ハトヤの歌で一つになった…
いよいよ大詰めを迎え、ショーも終わりのムード。その時、「♪伊東に行くならハ・ト・ヤ 電話はヨ・イ・フ・ロ」の音楽が流れてきた。興奮のあまり放心状態だった私は我に返り、最後にハトが飛んでくることを思い出した。
その瞬間、2階席の方から数羽のハトが一斉に飛び立ち、舞台上にとまり、あっという間にフィナーレとなった。ここにいる全員が同じ舞台を観て、同じように感動し、みんなが知るハトヤの歌で一つになった。私は気持ちが昂り、泣いていたかもしれない。
ハトヤのような大型の観光ホテルは、年々減りつつある。昭和の時代、旅行は一大イベントであり、気軽にできるものではなかった。せいぜい旅行といえば、会社の慰安旅行や、地域や親戚の団体旅行、学校の修学旅行か、一生に一度の新婚旅行くらい。つまり旅行とは大勢で行くのが定番だった。ところが近年はひとり旅も珍しくなくなり、少人数で、若者も、素泊まりや日帰りでホテルや旅館が利用できるようになるにつれ、団体客を豪快に受け入れてきた大型観光ホテルは減りつつある。
そんな私も旅をする際、宿泊先はたいてい、立地と金額で選んだ格安ホテルだ。しかしたまにはハトヤのような、歴史と情緒のある「目的地になるホテル」に泊まりたい。熱海のニューアカオ、四万温泉の積善館、鬼怒川温泉のあさや、白樺湖の池の平ホテル、塩原温泉のホテルニュー塩原、山口市湯田温泉の西の雅常盤、荻窪の西郊ロッヂング…。
歴史のあるホテルには、それだけ愛され続けてきた理由がある。そこには素晴らしい家具や意匠が施された建築、おもしろい逸話や魅力的な女将がいるかもしれない。格安ホテルではなかなか味わえない、特別な非日常を満喫し、人々に愛されてきたホテルの歴史を愛でたい。
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