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《コロナ鎖国で窮地の北朝鮮》「人身売買業者に捕まると中国の奥地の結婚できない男に売られる」命懸けの脱北で見た光景

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 しかし川崎さんら「帰国者」は、小泉首相の来朝によって日本への郷愁をかきたてられたということもあるのだろう。翌年、川崎さんは「北朝鮮へ渡ったときから考えていた」という約40年越しの脱北を遂に決行する。もちろん北朝鮮では国外に出ることは禁じられている。命がけの脱出となった。

韓国との故郷に近い北朝鮮・開城特別市の郊外 ©️getty

脱北に失敗した友人が「国境警備隊から拷問」

「情報が漏れると失敗して命を落とす危険があったため、家族を置いて、一人で決行しました。まず中国との国境地域にいるブローカーを雇いました。帰国者の姿をしていると、お金を持っていて客になるとブローカーから声をかけてくるんです。だけど我々の間で『脱北』という言葉は使わない。『川の向こうの中国に大きな市場があるので行きたくないか』『商売しているので行ってみたい』などとやり取りする中で信頼できるブローカーを見つけるんです」

 しかしブローカーの誰もが信頼できるわけではない。中には質の悪い人物も紛れ込んでいたという。

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「ある友人の日本人女性は、息子と一緒に脱北しようとして悪いブローカーに捕まってしまった。しっかりとしたブローカーは安全に川を渡るために、お金を国境警備隊や中国側のブローカーに渡す。それをしなかったため、川べりで、2人揃って逮捕されてしまったんです。

 逮捕されると、まず国境警備隊で拷問された後に地元の保衛部に連れ帰られる。友人は絶食するようになって、結核になってしまった息子さんと外に出ることはなく死んでしまった。知ったときは涙がずっと止まりませんでした」

ブローカーに潜む人身売買業者「脱北者につけられた値段」

 しかしながら川崎さんはブローカーの手引きによって中国国境の川を渡り、中国国内に入ることに成功した。

「国境の川の上流に、渇水期には石を飛び飛びに渡っていけば、足も濡れないで渡れるポイントがあるんです。良いブローカーを雇えた私は昼間に渡ることができました。中国側には、別のブローカーが車で待っていました」

 しかしながら、脱北に成功して中国に入れたとしても、安心はできないという。

2014年に撮影された北朝鮮の労働者地区。中国との国境に接する咸鏡北道にある  ©️getty

「悪徳ブローカーのなかには、人身売買業者も多いんです。脱北者には値段がつけられ、若かったり、美人だったりすると、日本や韓国の男に売りつけられてしまいます。遊郭みたいなところに売られたり、ひどいと中国の奥地の結婚できない男のところですかね。

 中国国内の公安も脱北者には目を光らせていて、捕まってしまうとその日のうちに北朝鮮に送り返されてしまう。妊娠している人がお腹を蹴飛ばされたりして流産させられたケースもありました。だから、脱北に成功しても、なかなか落ち着くことはできないんです」