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ナンプラに浸してさらに旨みアップ

 ところで。

 干物はそのまま干すばかりじゃありません。たとえば、煮干し。一旦、煮てから干したもの。脂肪を多く含むものをそのまま干すと、脂肪が酸化して日持ちしません。なので、新鮮なうちに煮て、脂肪を落としてから干すのです。

 日本的なものと思われるかもしれないけれど、あちこちにあります。ベトナムの浜で揚がり立てを加工しているところを見たことも。

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ベトナムの海辺。瀬戸内海沿岸ではない。©森枝卓士

 それから、煮干しというと、如何にもチープな印象を持たれるかもしれないけれど、いえいえ。たとえば、中華料理の高級食材として知られる、ナマコやアワビの乾物も煮干しです。

​高級中華食材の干しナマコは、一旦、茹でてから干す。煮干しだ。©森枝卓士

 他にも、たとえば生ハム。塩漬けにすることで、水分を抜き、味をつけ、そして、干すという作り方ですね。また、それを言えば、アジのミリン干しのように、味をつけた上で干したものもありますよね。

 それで思い出しました。わたしが親しくしていた、能登の民宿。自家製のイシリ(イカの内臓で作った魚醤)にさっと、イカやらカマスやらくぐらせた上で干物にしていました。その旨みの凄いこと。真似して、ナムプラなどで同じことをやったり、あるいは、先に書いたピチットシートで包む際も、ナムプラで味をつけてやったり。そう、これもいいです。鶏でやるときも、軽くナムプラ味をつけたり。

 ともあれ。書き出すときりがないくらい、様々な工夫があるというわけですが、そして、そのような工夫の中で、単に保存性を高める、冷蔵庫も冷凍庫もなかった時代から、どのようにして長く食べ続けるかという方法が生み出されてきた、文化が育ったということですね。味覚が育った。

ミャンマー、シャン州。せんべいみたいなパンのようなものは何でしょう? 答えは「納豆」。©森枝卓士

 そんな中でも、ある意味、究極かなと思うのが、カツオ節です。なんせ、煮て、干して、燻して、干して、最終的にはカビの力まで使って水分を抜くんですから。そうすることによって、独特の味わいを作りだしているのですから。

男性が手にした枯れ木のようなものはスリランカの「カツオ節」。日本以外にもあった。©森枝卓士

 ただ、これも日本だけのものじゃありません。カビ付けだけはしませんが(日本のカツオ節でも、沖縄で使われるものとかはカビ付けしません)、ほぼ同じものがモルジブにあります。スリランカでカレーに使われるモルジブフィッシュです。

 とにかく、人は食べ物が日々、コンスタントに入手出来るわけではない、たっぷりと手に入ったり、取れなかったりのギャンブルのような状況の中で、如何にして日々、食べるものに苦労しないですむようにするかという工夫をしてきたということ、ですね。それぞれの環境で。その中で、それぞれの独自の、ユニークな食文化が育ったと。

 そう考えると、どうです? 干物の一切れも愛おしくはないですか。

 あ、そういえばフリーズドライも新しい干物と言えなくもないし……というわけで、話は尽きませんが、今回はこんなところで。

日本の食卓に欠かせない食材、鮭。村上の鮭は塩をしてから干して…。生ハムと同じだ。©森枝卓士

干したから… (ふしぎびっくり写真えほん)

森枝 卓士(著)

フレーベル館
2016年3月1日 発売

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