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なぜ人は食べ物を干してしまうのか。干物入門――初級編

アジの開きだけではない。『干したから…』森枝卓士が見た干物のすごい世界

2017/11/21
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軒先に干したカエルが揺れている 

 ラオスの古都、ルアンパバーンからメコン川の支流を遡った、少数民族の村。とある調査のために滞在していたのですが、歩き回ると、様々な干したものに出くわしました。

 スライスして広げたバナナだったり、様々な野菜だったり。極めつけはカエル。アジの開きというか、目刺しというか、そういう感じで軒先に、カエルの群れが揺れていたのでした。小魚もあったから、同じ感覚か。

干し柿でも、洗濯物でもなく「カエル」。©森枝卓士

 電気も来ていない村です(自家発電でテレビは見ていて、その電気をお裾分けしてもらって、カメラ等のバッテリーをチャージしていたのですが)。そんなカエルの干物など見ながら思い返すと、世界中で様々な干物を見てきたものでした。

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 モンゴルの草原。冬はずっと冷凍庫の中のような温度なので、屠畜した羊などの肉を外に置いても平気ですが、夏の間はそうはいかない。羊や牛、場合によってはラクダなどのミルクを搾って、チーズの仲間のような食品を作ります。チーズという概念をどこまで……というややこしいところはありますが、ともあれ、ミルクを凝固させたもの。それをゲル(あのテント状の家)の上で干す。地面に置くと、そこらにいる家畜たちに食べられてしまうので。

 そうやって、すぐに腐ってしまうミルクを、常温で長く保存出来る食品にするわけですね(あ、そういえば、同じく長持ちさせる工夫である、発酵とセットになっていますけれど、この話はまた、改めて)。

ゲルのテントで天日干し真っ最中。©森枝卓士
丸型、四角…ミルクを干したらこんなふうに変身した、©森枝卓士

 ミルクを固めるということでは、ブータンのものも凄かった。サイコロ状のチーズをぶら下げた暖簾みたいにしたものを市場で売っています。試しに買ってみたら、いやはや。噛もうとしても噛めない。固いのです。結局、諦めて出してしまいましたけど、土地の人たちはずっとしゃぶっているとか。何時間かしたら溶けて……。ほんとかしら、と思うほどの堅さでした。カツオ節も真っ青。

 ブータンも冬は寒くなる、作物など育てられなくなるようなところですから、干したものが乳製品以外にもたくさんあります。泊めてもらった農家は立派な、大きな家でしたけれど、一階は牛のための家畜小屋。二階が住居部分で、三階は倉庫でした。保存食がたっぷり。干し肉から、唐辛子まで干したものを貯蔵してあるのです。

 暖簾のようにといいましたけど、万願寺唐辛子ほどの唐辛子を暖簾のようにぶら下げて、干してあるのも秋の風物詩でした。生で食べられる以外の唐辛子は干して保存するのです。この国では香辛料というよりも、野菜そのもの(これ以上はない激辛の国)。だから、大量に干して保存するのです。次の収穫まで。

お祭りの飾りではない。食べられる。©森枝卓士