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「行かないでくれ」か「頑張ってこい」か…広島・鈴木誠也のメジャー移籍報道に抱く切なすぎる思い

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/07
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「野球を楽しむ」という言葉の本当の意味

 いきなりの方向転換だが(現実逃避とも言う)迷わず話を進める。誠也が野球を始めたのは、なんと2歳の時。本人は記憶に無いそうだが、祖父の勧めで始めたのがきっかけらしい。そして野球チームに入ったのは小学2年生の時。周りの友人たちが野球を始め、それを見に行って「僕もやってみたい」と思ったそうだ。

 そんな「少年・鈴木誠也」には、幼いながらも今に共通するある思い、いや、ある意味では野球観のようなものがあった。それは「野球を楽しんでやりたい」ということ。物心がついたころから「やらされる野球」が好きではなく、それどころか、自分が上手いのか下手なのかという認識も無かったという。とにかく楽しんでやることがすべて。野球漬けの日々だったけど、誠也の頭にあったのは、どれだけボールを遠くに飛ばせるか、どれだけボールを遠くに投げられるか。驚くことに、監督を始めとする指導者からも技術的なことを教わったことがほとんど無いらしく、いちばんのモチベーションは「仲間と野球をやる」。これだったそうだ。

 その感覚は、プロ野球選手になった現在でも同じだと思う。広島での試合。シーズンごとに更新される選手紹介のムービーでは、必ず「おちゃらけた」誠也を見ることができる。そしてそれは他の選手にも伝染し、複数の選手がそれぞれにファンが楽しむような表情、ポーズを見せてくれる。チームの主砲でありながら、誠也の信条である「楽しんで野球をやる」。これがチーム全体に浸透しているように見えて仕方がない。楽しむためには結果も残さないといけないワケだが、それも見事にクリアしている。練習して、練習して、真剣に野球に取り組んで、ハッキリと結果を出しながら野球を楽しむ。結果を出すことと楽しむこと。それを見事に両立させているのだ。

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 その「両立」という部分に関しては、本人の発言からも伝わってくる。たとえばあるインタビューでは「ただ技術を突き詰めるだけだとつまんないし、しんどいだけ。勝つために何をやらなければいけないか。それが野球の楽しさだと思ったんです。チームのために何ができるかを考えて、必要なんだと思ったものをやって、今がある。その中で自分の技術を上げていく」と答えた。それとは別のインタビューでは「自分の成績ってあんまり考えたことない。それを考えるとダメになることが分かっているので。野球はチームのみんなで一つになってやるスポーツ」とも言っている。こういう話を実際に聞くと、誠也の野球観、そして「野球を楽しむ」という言葉の本当の意味が見えてくるように思う。

 では、もし。もし誠也が考える「野球を楽しむ」ことの延長線上に「メジャーリーグ」というものがあるとしたら? だからこその挑戦だとしたら? 振り返れば、黒田やマエケン。彼らのメジャー移籍も我々は容認した。というか、厳密に言えば止められる立場にない。ということはつまり、今回も「頑張ってこい!」なのか? いや、でも、やはり来年も、というか生涯カープで……。そう。結局のところ、仮にメジャー挑戦が今年じゃなかったとしても心は揺れ動くのだ。ソワソワしてしまうのだ。それはこのコラムを読んでくださっているカープファンの皆さんも同じだろう。歌って踊れる、ならぬ「笑って楽しんで打てる」男、鈴木誠也。やはりその背中を押すしかないのでしょうか? 嗚呼、私たちを悩ませる秋の鯉わずらい。

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