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期待し続けた11年、これから始まる斎藤佑樹と私たちの第2章

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/10
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私たちはまたお互いを素直に思いやれる関係に戻れた

 10月に入って一番最初に受け取ったファイターズからのリリースに「斎藤佑樹投手引退のお知らせ」というタイトルがついていた。いざ現実となると確実にぽっかりと心に穴が開いた。しばらくぼんやりしている自分にハッとした。こんなにも自分は斎藤佑樹投手を応援していたのだと気づいた。

 ここ何年も斎藤佑樹投手に関して、番組に届くメールは批判だらけだった。放送に乗せられないような、文字を追うだけで胸が苦しくなる内容も珍しくなかった。最近はインターネットのニュースにもコメント欄が設けられているから、同じような、いやもっとひどいコメントも目に付いた。一体どうしたら思いつくのか、と疑うような辛辣な言葉の羅列。彼に届かない筈はない。でも斎藤佑樹投手はいつもクールに見えた。きっと本来の彼はかっこ悪い姿を見せたり、ボロボロになる姿を見せるのは大嫌いだったはずだ。

 でも栗山監督は彼にこう言っていたそうだ。お前にはそれを見せる責任がある、最後までやり遂げる責任がある、やり切れ、と。栗山監督が斎藤投手に甘いんじゃないか、彼だけが特別扱いなんじゃないか、そんな批判も多かった。でもその裏にはこんな言葉があって、輝いていた人間が持つもがき苦しむ姿を見せるという責任は二人の固い約束でもあったのだと思う。二人とも苦しかったと思う。

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©文藝春秋

 引退試合は10月17日だった。最後の挨拶の言葉、感謝の思いと共に彼はファンに謝った。期待に応えられなかったと。謝罪する引退挨拶なんて初めてだなと札幌ドームで私は思い、そしてその言葉に大きく頷いた。そうだった、毎年、あなたに期待をし続けた11年だった。うまくいかないことだらけでつらかった、エールを送ることに疲れたこともあった。いまはちょっとほっとしている。もう誰もあなたを責めない、責められる姿、責める姿を見てしまうこともない。

「佑樹、これからは明るくいくぞ!」

 最後の握手のあと、栗山監督があなたにそう声をかけた。

「きっとまたお会いしましょう」

 あなたは挨拶の最後にそう言った。

 私たちはまたお互いを素直に思いやれる関係に戻れた。もうわだかまりはない。これからは佑ちゃんと私たちの第2章だ。ステージはどこなのか楽しみにしていよう。そこはきっとキラキラしている、佑ちゃんはキラキラした場所が似合うから。

引退試合で配布された応援ボードと号外新聞 ©斉藤こずゑ

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