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高津臣吾監督の“言葉の力”に導かれて…向坂樹興アナが語るヤクルトの“異例のシーズン”

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/14
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放送ブースはコロナで使用できず…

 8月24日の草薙球場では、コロナ禍ならではの「初めての経験」をした。

 以前は放送ブースの中で実況出来たのだが、今年は客席に実況席をしつらえて、解説の井端弘和さんと並んで実況することになった。

「神宮の放送席では、解説者とアナウンサーの間にアクリル板があります。そのアクリル板を、スタッフが草薙球場用に送ってきていました。客席のテーブルの上に板を立てるのですが、野外だから風で倒れてしまう。何で固定しようとしても難しいので、試合開始1時間くらい前にスタッフが『向坂さん、すみません。マスクをしてしゃべってください』と」

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 生涯初、試合終了までマスクをしての実況となった。「長い試合にならなくて良かったと思います。結構大変でしたね」と苦笑いする。

 一転、中3日で訪れた東京ドームでは、「エアコンがこれだけ完備されて、なんと快適な放送席なのか!と率直に思ってしまいました」。今夏の酷暑を象徴するエピソードだ。

「絶対大丈夫」に心揺さぶられた

 ペナントレース終盤には「絶対大丈夫」という高津監督の言葉が、選手の心を奮い立たせ、ファンの心も強く揺さぶった。

 それはアナウンサーにとっても印象深い言葉だった。

 高津監督の著書『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』という本から引用して、向坂アナはこう言う。

「二軍監督時代から、高津さんは『野球は言葉のスポーツでもある。普段から言葉で確認し合い、意思疎通を図っておくことが、プレーの精度を高め、組織として強さを発揮できるようになる』とおっしゃっています。NPB、メジャー、海外の色々なリーグ、独立リーグまで経験されている、その経験が高津さんの言葉一つひとつに生きているのでしょう。まさに高津さんの言葉というのは非常に大きいですし、その言葉をお作りになったのは、きっと野村克也さんから受け継いだ部分があると思います」

昨年の神宮放送席 ©向坂樹興

 10月7日、神宮の巨人戦。この日、向坂アナはヒーローインタビュー担当だった。

 9回1死まで巨人投手陣に無安打と完璧に抑えられていて、ノーノー継投もあり得る展開。そして0-0の引き分けならヒーローインタビューは行われない。

 しかし、抑えのビエイラから塩見泰隆がチーム初ヒットを打つ。そして執拗な牽制に負けず盗塁を決め、山田哲人の遊撃強襲ヒットでサヨナラ勝ちを収めた試合だった。

ヒーローインタビューは「ショー」

「ヒーローインタビューは『ショー』と考えています。まずはスタンドのファンが一番知りたいこと、聞きたい言葉、それをいかにショーアップして聞いていくかを心がけています。優勝に向けての二人の気持ちというのを素直に、フランクに引き出すことが出来た、嬉しいヒーローインタビューでした」

 晴れ晴れとした表情の塩見が「今季一番の盗塁」と胸を張り、山田も多弁で、「打った瞬間はちょっと『終わった』と思ったんですけど」と笑わせる。ヒーローたちの“トークショー”を盛り上げた。

 天王山の神宮6連戦で唯一の敗北となった10月9日に今季最後の実況を終え、その後はリーグ優勝までをテレビで見守った。

「テレビの向こうで胴上げの直前、高津監督が輪の中に入って、まず『言葉』をかけましたよね。きっと高津さんの言葉がみんなに浸透したからこその優勝で、この後クライマックスシリーズ、日本シリーズに繋がっていく期待感がありました。いきなり胴上げじゃなく、言葉からというのが高津さんらしいなと思いましたね」

 最後の最後まで優勝の行方が分からない、緊迫したペナントレースを、スワローズは一致団結して乗り切った。それを見る向坂アナの心にも、何度も「絶対大丈夫」という言葉が浮かんでいた。言葉の意義や意味の大きさを感じながら過ごしたシーズンだった。

 オリックス・バファローズとの日本シリーズを勝ち抜き日本一となるまでは、ファンとともにスワローズを見守る毎日だ。高津スワローズのヒーローたちが、どんなプレーを見せ、どんな声を聞かせてくれるのか、今度は自宅のソファで楽しみに待っている。

 向坂樹興(さきさか・たつおき) 1982年フジテレビ入社。報道・情報番組などで多岐に活躍し、現在、CS放送フジテレビONE『プロ野球ニュース』、『SWALLOWS BASEBALL L!VE』実況などを担当。

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