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ファイターズの悔しいシーズンを振り返って思い出した、宮西尚生の涙

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/14
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思わず溢れる感情にドラマを見る

 しかし、プロ同士の熱い戦いのなかでつい溢れてしまう喜怒哀楽、そんな部分にドラマを感じるのもまた事実です。絶好のチャンスを潰してしまったとき、ここぞの勝負どころでエラーをしてしまったとき、土壇場で一発を浴びてしまったとき。選手たちの表情を、テレビ中継のカメラはここぞとばかり捉え、その心模様が漏れ出していないかに目を向けます。呆然とした面持ち、苦虫を噛み潰したような顔ばせ、平静を装う面差し。逆にチャンスに打ったとき、ピンチを抑えたときに思わず溢れる感情。それらは表裏一体なものですし、喜びの影には沢山の悔しさの山があり、苦しさがあればこそ一層喜びが輝き、心を揺さぶるのだと思います。

 溢れ出す感情ということで思い出されるのは、ソフトバンク長谷川選手の現役最後の打席。一塁へのゴロに全力疾走、そしてヘッスラ、間一髪のアウト。現役最後の打席とは思えないその執念と気迫、真剣さ。ベンチに下がったあとも悔しさが堪えきれない様子を見るに、思わず目頭が熱くなりました。近年は怪我がちで思ったように行かないことも多かった長谷川勇也という選手のドラマ。それまでの積み重ねられたものがあればこそ、僕らは感動したのだと思います。

 積み上げられてきたものの重み。今シーズンのホーム最終戦、10月26日の対西武戦。8回途中、好投する上沢が2アウトを獲ったところで栗山監督が審判からボールを受け取りマウンドへ。この試合で14年連続50試合登板を達成する宮西に直接ボールを手渡し、背中をポンと叩きました。10年間の栗山政権、良いときも悪いときも支え続けた左腕への労い。「長い間投げてくれて、ありがとう」そう伝えられたという宮西、大きく息を吐き、涙を堪えるように目を瞬かせて投球練習をしていたのが印象的でした。

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 2011年のことだったと思います。ソフトバンク戦で救援失敗をした宮西は、次の登板でリベンジするとベンチでタオルに顔をうずめて涙を流しました。悔しさや不甲斐なさ、責任感などさまざまな感情が思わず溢れたのでしょう。「こういう経験から学んでいかなければ」とコメントしていたと記憶します。思えば宮西がまだ20代半ばの頃の話。

 実はあとで建山さんから「投手は涙は見せるな」と言われたらしいのですが、そう言えばあれから10年か。そこからタフな場面も、慣れない抑えも、敗戦処理も、どんなときも投げ続けた宮西が、マウンドで思わず泣きそうになるくらい、栗山監督と共に積み重ねてきたこの10年間のいろいろが去来したんだろうな。

 打席に岸選手を迎え、投球するころにはもう表情はいつもの宮西に見えます。3球目のシンカーでピッチャーゴロに仕留め、グっと拳を握ってマウンドを降りました。

 思えば人生なんて思い通りにいかないもの。プロの世界なんてそりゃもっと大変でしょう。でもそれを積み重ねつつも、たゆまぬ向上を目指す姿に僕らは惹かれるんだと思います。長谷川や宮西がそうだったように。

宮西尚生 ©文藝春秋

 今季は西川、渡邉、大田、中島に杉谷といった選手たちが、結果が残せなかったり出場機会が減ったりでまったく思い通りに行かなかった年でした。若い選手のように無邪気に喜んだり悔しがったりしてもいられない中堅どころ。この悔しさをどう乗り越えるか、そのときにどんな表情が溢れ出すのか、それを見せてくれるのだと思えば楽しみでもありますね。

 彼らの悔しさの積み重ねは、明日への糧になるのだと信じて見つめていきたいものです。沢山の失敗を重ねて学んで、それがようやく思い通りにいったとき、より一層に嬉しさを感じられることでしょう。なぜなら僕らファンは、選手たちの悔しさをずっと見てきて知っているはずですから。

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