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 フィリピンまでは同じ漁船。でも一回、台湾で乗り継ぐ。タイの漁船がなぜ日本に来たのか。明らかに不自然だからな。が、台湾とは海産物の受け渡しを頻繁にしているのでゴマカシがきく。そして瀬取りなどしてヤクザの息のかかった日本の漁船に積み替え、陸に上げる。これが唯一、安定的にいまでも続いている密輸ルートだ」

 松本(編集部注:独自に覚醒剤のタイルートを開拓していたヤクザ組織の幹部男性)は、タイに組織の自前の製造工場があることを否定していた。その真偽については分からないが、とにかく、他国に、政府機関と無関係の工場を持つことで安定供給できるわけだ。

米軍ルート

 かつて和久井は僕にこう質問したことがあった。

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「いま日本に入って来ているシナモノ(覚醒剤、大麻、コカインなどの麻薬)は、7割がヤクザルート。残りの3割はどこからか、なあ、分かるか?」

 答えに窮していると、和久井は勿体ぶらずに言った。

「米軍。つまり在日米軍基地からの横流しだ。それも北朝鮮などから組織的にね。 

 もちろんそれだけじゃない。在日米軍では、毎月、米兵に本国から仕送りができる。一人当たり10キロの積荷が認められている。検査もなく飛行機で直接、基地に運べる。このなかにシャブやコカイン、マリファナを忍ばせ、それをヤクザが買い取っているんだ」

 米軍ルート。北朝鮮と米軍基地には直行便があり、横田基地などを通じて、密輸ではなく堂々と“輸入”されているという。

 その都市伝説めいた発言に僕は、その場はひとまず押し黙るしかなかった。ありえない。繰り返すが自分を大きく見せたい裏社会の住人が取材者に対してリップサービスをするなど、よくあるものだ。

 ところが、こともあろうに和久井は、大真面目にこう続けたのである。

「ウソだと思うなら調べてみたらいい」

 調べると、少ないながらも北朝鮮と横田基地を結ぶ直行便があることを示す記述や画像が散見された。

©iStock.com

「横田の米軍からの横流しとの触れ込みの大麻を売人から買ったことがある」

 一連の記事を読み、地元の先輩の言葉がよみがえった。普段は自分で栽培した大麻を楽しんでいるこの先輩は、ものの一吸いでブッ飛んだといい、たとえオランダやカナダなど“本場”から密輸されたものでもコンテナに入れて船で時間をかけて運ぶと熱で品質が落ちるところ、確かに空輸されたと思しきほどモノは良かったという。

 よもや、よもやだ。でも、ありえない話ではないのでは。大麻があるならそう、このルートで日本に覚醒剤が入ってきているとしても。

 この疑問を前出の元税関幹部の男にぶつけると、

「噂レベルでも聞いたことがありません。しかし横田に入る荷物を検査する権限などありません。横田基地などは日本国内にあってもカリフォルニア州です。海外と海外で起こっていることで、つまり治外法権。捕虜交換規定などにあたる明確な犯罪がないと監視することはできないでしょう。確かに盲点かもしれませんね、言われてみれば」

 という見解だった。

 一介のヤクザの発言ならいざ知らず、日本の覚醒剤史を熟知する和久井の証言だ。さらに国家の中枢に身を置くキャリア官僚でもある元税関幹部が、治外法権であり盲点と言うなら、調べてみる価値はある。