裏取り
改めて可能性を感じた僕は、それでも半信半疑のまま、この話の裏取りに走った。
明くる日、ある可能性を信じ、また松本を訪ねて米軍ルートについて訊いたところ、彼は「実は前にも話そうと思っていたけど、信じてもらえないかと思って」と前置きした後、堰を切るかのごとく早口で捲し立てた。
「取締りが厳しくなったいま、確実なルートは一つだけ。日本政府がやってるルートしかないでしょう、米軍基地。これしかないんですって。自分たちが密輸を企てても、瀬取りだなんだと出たとこ勝負にならざるを得ない。年間1トン、2トンと挙げられている。なのに、なぜか覚醒剤は日本からなくならない。だから何度も言うけど、大きな荷物が安定して入るのはこの米軍ルートしかない」
僕は米軍ルートを氷解したい、ひいてはシャブがなくならない理由を突き止めたいと懇願した。彼は当初、「こんなの書けるの?」と眉間に皺を寄せて難色を示した。だが、熱意が通じたのか、表情は徐々に軟化して僕に訴えた。
「知る限りでは、中国や北朝鮮から直行便がある横田基地。これは間違いない。あとは沖縄。こうした米軍基地に飛行機等で持ってこないと絶対に無理です。いくら摘発してもシャブがなくならないのは、このルートが秘密裏に機能しているから。つまり経験上、日本政府が絡んでいるとしか思えないんだ」
日本政府が絡み、横田基地に中国や北朝鮮の覚醒剤が直接入ってくる。聞くだに荒唐無稽とも思える話である。松本はこう推測した。
「日本に入ったシャブをどこの組織が捌いているかまでは教えられない。まあ、政府と懇意にしている組織だ。
横田から外国人ブローカーでワンクッション、政府関連組織でツークッション、そしてスリークッション目で我々の元に届く。そこから先はブツの量でどれほど人が入るかが変わる。例えば俺が10キロを1キロずつ卸したとすれば、今度は1キロから100グラムになる。そして100グラムから10グラムになる。最終的には10グラムから1グラムに。そして最後は売人から個人の使用者へ。
この手口じゃないと絶対に無理。GPSで瀬取りも無理。税関も無理。他にどうやって安定して入れられるんですか」
しかし、状況証拠による彼の推理だけでは、米軍ルートを事実として受け止めることなど到底できない。なにせ和久井の見立てでは全体の3割だ。米軍が組織立ってそんなに大量の麻薬を密輸するものだろうか。せいぜい米兵が小遣い稼ぎをしているぐらいのものではないのか。
松本の推理には、さらに重要なポイントが隠されていた。彼には事実を捜し当てようとした過去があった。
「去年にも一度、『シャブが60キロ入った』との知らせがヤクザ仲間からあり、各組織が買い付けに走った。でも、通常ならどこの組織の誰が密輸したかが分かるところ、調べても調べても名前が出てこない。となれば、残るはもう米軍しかないから」
僕は言った。
「松本さん、その自信はどこから来るんでしょうか」