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実録ものの場合、オチやネタバレというのはどのように考えればいいのでしょう?

宇多丸 この流れで思い出す作品といえば、やはり『グッドフェローズ』(1990年)です。ヘンリー・ヒルという実在のニューヨーク・マフィアを描いた作品で、『ウルフ〜』同様、スコセッシが監督している。

真魚 見比べると、『ウルフ〜』とすごく骨格が似ていますよね。題材は違えど、映画の構成としては、ほとんどセルフリメイクと言っていいくらい。

 

宇多丸 僕は、『グッドフェローズ』は、大きく言えば90年代以降の映画文法を一気に確立した一作だと思っています。カッティングのセンスや、音楽の使い方を始め、いわばヒップホップ以降のサンプリング的な感覚を、エンターテイメント映画の語り口に完全に昇華してみせたというか。その意味で『グッドフェローズ』は、まさにそうした手法で一世を風靡するクエンティン・タランティーノの台頭も予言していたとも言えると思うんですよ。

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 ここで確立されたスタイルは、その後幾度となく模倣され、一般化します。当然のことながら、『バリー・シール』もその影響下にある作品の1つ。ポップ・ミュージックをあの速度でブチ込みまくっていくところとか、モノローグで引っ張るスタイルは、完全に『グッドフェローズ』以降のものでしょう。

真魚 モノローグの手法にはカメラ目線の演出も加わってきます。まさに『バリー・シール』は、主人公が観客に向かって「俺はバリー。こんな人生を送ってきた」みたいに、カメラを見ながら来歴を語り出すスタイル。ネタバレになってしまうので言い方が難しいですが、『バリー・シール』のあの語りは、ちょっと反則技ですよね(笑)。

 

宇多丸 まあ、ミスリード的ではあります。しかし、この手の実録ものの場合、オチやネタバレというのはどのように考えればいいのでしょう? 実在の人物に、実際に起こった出来事だから、主人公の末路は知ろうと思えば誰でも知ることができるわけで。

真魚 モデルにして創作に発展させる以外では、主人公の人生は確定していますからね。

宇多丸 例えば、トムが主演&製作総指揮を務めたヒトラー暗殺計画もの『ワルキューレ』(2008年)は傑作でしたが、史実としてヒトラーは暗殺では死なないことが広く知られているので、その部分では不利な映画でした。

真魚 お尻は決まっている以上、「どう描くのか」を見る楽しみになりますよね。『ワルキューレ』なら、作戦の緊張感や失敗した時の軍部の焦り方や、その時の役者さんの演技とか。

宇多丸 もっとも、これから起こることを知ってはいても、映画で見せられるとショッキングだったりすることもある。「既知/未知」を超えてしまうところも、映画の力であり、面白さだと思います。