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宇多丸×真魚八重子「ダメ人間」バリー・シールを演じるトム・クルーズは最高!

オススメの「実録犯罪映画」対談#1

2017/11/19
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クソ野郎の作った“名作”を断罪すべきか

――「作り手よりも作品の方が立派」というと、最近セクハラで訴えられている映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの問題なども思い出されます。

宇多丸 まあ映画って、「良い作品でも作っている人間はクソ野郎」問題みたいなのは昔からありますからね。でも、そういう「問題人物が作っていた映画=悪」としてしまうのも、またどうなんだろうとも思います。そんなことを言ったら、同じくセクハラが後年問題となったアルフレッド・ヒッチコックの映画なんかも見られなくなってしまいますからね。

真魚 よく関係者が問題を起こすと「その人の関わった映画は封印しよう、もう観ないようにしよう」と言い出す人がいますが、私は間違っていると思います。映画って、監督やプロデューサーだけで作っているわけじゃない。俳優や裏方なども含め、ものすごくたくさんの人が関わっている。そういう人たちの仕事まで見る機会を奪うというのは、ちょっと違うのではないかな、と。

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宇多丸 ポリティカル・コレクトネスに則って、過去の映画を断罪することも同じですよね。昔の映画を見ると、思想的な偏向は確かにあるし、今の価値観に照らすとNGな作品も少なくありません。でも、そうした基準なんてものは、時代によって大きく変わるものでもある。D・W・グリフィス監督の『國民の創生』(1915年)や、ヴィクター・フレミング監督の『風と共に去りぬ』(1939年)といった“名作”は、今見たら白人至上主義バリバリでひどく差別的だけど、あれが普通だった時代もあるわけですから。

真魚 今、『風と共に去りぬ』が作られたとしたら、まったく別な作品になるはず。もっと文化的にも洗練された、気遣いのある映画になっている可能性が高いと思います。

――ということは、時代が変われば、同じ事件や出来事を描いた映画でも、その描き方に違いが出てくるということですね。

宇多丸 例えば、昭和天皇の描き方の変遷などを見ると、はっきりと時代が出ているなと思います。終戦までの24時間を描いた『日本のいちばん長い日』は、1967年に公開された岡本喜八監督版では、天皇(八代目松本幸四郎)はシルエットでしか描かれていません。一方、2015年に公開された原田眞人監督版では、本木雅弘が昭和天皇を演じ、思いっきり顔を出している。

真魚 かつては「天皇=神」でしたから、そのまま出してしまうことは不敬だと抵抗があったのでしょうね。

宇多丸 やはり、かつては特権化するような撮り方をしていました。でも、だんだんそうしたタブーも薄れてきて、イッセー尾形演じる天皇を「1人の人間」として描いたアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(2005年)なんて作品も出てきた。もっともソクーロフは外国人だから、日本人が躊躇するようなことも、わりと平気でできてしまったという面もあるのでしょうけど。

INFORMATION

『バリー・シール/アメリカをはめた男』
10月21日(土)より、全国公開中
配給:東宝東和

写真=山元茂樹/文藝春秋
#2に続きます)

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