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悪夢は終わらない

 さらに就寝前、歯磨きをしているときに「ピチャ……ピチャ……」と雨漏りのような音がするので、嫌な予感がして洗面台の下の収納スペースを恐る恐る開けてみる。さっき、せっせと詰めた荷物が水浸しになり、水たまりができている。ライトで照らしてみると、水の漏れている場所は洗面台のボウルに繋がっている配管からだと判明した。

 この時点ですべての疲れがドッと襲いかかってきて、思わず「貸す? こんな状態で、家、普通」と倒置法の独り言が口から飛び出してしまった。詰めた荷物を再度取り出し、すべてタオルで拭き、水漏れで収納スペースの床がダメになってしまわないようにバスタオルを敷いて、その日は眠ることにした。

猫もご覧の通り不機嫌に ©吉川ばんび

 そして翌朝、朝イチで管理会社に電話をかけて責任者に事情を話すと、30分ほどでこちらに確認に来てくれることになった。電話越しに「この物件ってハウスクリーニング入ってますよね?」と確認すると、責任者であり社長の、70代前半くらいの女性の「もちろん入ってますよお~!」という明るい声が返ってきた。どうやら先方のミス(というレベルなのかは謎だけれども)であることは間違いなさそうなので、こちらが持ち出しで清掃に支払うお金はないだろうことがわかり、少しだけ安堵した。

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 しばらくしてやってきた社長はいかにも「金持ち!」というような出で立ちで、大ぶりのアクセサリーをたくさんつけた姿で「初めまして吉川さん! ご挨拶できて嬉しいです!あ、そうそうこっちは娘です、うちの従業員見習い! いずれ後継ぎになるんです!」と、おそらく40歳くらいであろう娘さんと二人でニコニコと挨拶をしてくれた。さっそく家に上がってもらいトイレを確認してもらうと、社長は「ありゃ、これはひどい。あれだね、清掃業者さんがチェックし忘れたんだね」と少し大げさに驚いて見せたあと、娘さんに「じゃ、掃除お願い」と促した。

ツッコミが止まらない

 てっきり業者の方を呼んでくれるものだと思っていたため、とっさに「あれ?」という顔をした私に気付いたのか、社長は間髪入れずこう続けた。

「この子ね、そこらのプロよりも実力あるんですよ、今日たまたまスケジュールが空いてて、一緒にきてくれるって言うんで連れてきたんですけど。すぐ綺麗にさせていただきますので!」

 プロの人にお願いしたい。もうお金を払うから、プロの人にお願いしたい。