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家賃を18カ月滞納した大作家、子どもの衣類がないと訴える経済学者…歴史的偉人たちの生々しすぎる“金欠”苦労

『人間愚痴大全』より #2

2021/11/14
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子どもらが外出したがっているんだが……、服も靴もないんだ/カール・マルクス(経済学者)

 1818年~1883年。ドイツの経済学者、哲学者。科学的社会主義の創始者であり、いわゆる「マルクス主義」の祖である。エンゲルスとともに『共産党宣言』『資本論』らを刊行。弁証法的・史的唯物論による共産主義理論を確立した。

 資本主義から社会主義への移行を必然ととらえ、科学的社会主義ならび革命理論を完成させたドイツの哲学者カール・マルクス。

 このような肩書や経歴だけ眺めていると、とてもとっつきにくい人のように思えるが、素顔のマルクスは、とても人間ぽく、それでいて少々ずるいところもあったようだ。

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 プライベートでの悪癖を書き連ねたら、きりがない。まずは、わがままで子どもっぽい。チェスで負けそうになると不機嫌になり、すぐに八つ当たりをしはじめる。

 離れて暮らす家族に、ろくに手紙も書かない。たまに書いてもものすごい悪筆で、とても読めたものではない。読む人の気持ちなどあまり考えていないのかもしれない。

 女癖もあまりよくはなかった。その典型的な例は、家政婦に手を出し、子どもを産ませていることだろう。

 そして、しばしばいわれるのが、お金に対してルーズであったということ。自分ではろくに稼がないのに、人からは平気でお金を借りる。父親はもちろん、友人で共同執筆者でもあるエンゲルスなどは、これによって、大いに困惑させられていた。

 基本的にマルクスは、世の人が「定職」と呼ぶようなものには就いていない。一度だけ、鉄道の事務所に就職する、という話があったのだが、あっさりと断られている。原因は、あまりに字が汚かったためだ。

 マルクスが45歳の年、終生の友、エンゲルスの事実婚の相手が亡くなった。悲しみに暮れるエンゲルスに、マルクスは手紙を書いた。

「死の知らせに私は驚き、狼狽した」

 最初はもちろん、友の最愛の人の死を悼んでいた。しかし、マルクスは、そのうちに自分のことを書きはじめる。

「子どもたちが外へ出るにも、服も靴もないんだ」

 だから金を貸してくれ、という借財の手紙なのだ。愛する人の死を悲しんでいる友人に対してである。

 さすがのエンゲルスも後日怒りの手紙を送ったのだが、それに対しマルクスは

「あんな手紙を書いて悪かった(中略)ただ、肉屋はしつこく代金の請求をするし、家には石炭も食べ物もないんだ」

 とさらに輪をかけて、金がないことを愚痴り、性懲りもなくお金の催促をした。

 もっとも、これは、悲嘆に暮れるエンゲルスに「自分はもっと悲惨なんだよ」と告げてなぐさめようとしたのだという解釈もあるのだが、そうだとしてもあまり効果的ではなかったようだ。

 それでも、二人の友情はその後も続いた。マルクスの死後もエンゲルスは遺稿をまとめ『資本論』を完成させている。