「ほっとしましたよ」
フィギュアスケート取材が長い記者と雑談を交わす中で、ぽろりとそんな言葉が出た。話題になっていたのは週末の大会に出場していた本田真凛(20)。国際大会のグランプリシリーズ「スケートカナダ」の話以上に、記者の熱がこもっていたのは東日本選手権という国内の大会に出た彼女のことだった。
全国大会の予選通過さえギリギリ
この大会は上位5人に入ると全日本選手権の出場権を手にすることができる。男子の羽生結弦(26)や宇野昌磨(23)、女子の紀平梨花(19)や坂本花織(21)のようなトップ選手はシードや予選免除で全日本選手権に直行するので、各地での事前大会は予選のような位置づけになる。
本田はその東日本選手権で、ショートプログラムを終えて8位。5位を狙うには瀬戸際のポジションで10月31日のフリーを迎えたが、フリーでは順位を上げて最終的に5位。滑り込みで全日本選手権への切符を手にした。記者は、本田が全日本選手権への出場を決めたことを喜んでいた。
しかしよく考えれば、全国大会ですらない国内の大会で5位。しかも上位勢は世界を転戦しているので、出場選手たちはトップレベルとは言い難い。その中で優勝を争うどころかギリギリ5位というのは、本田真凛の注目度やこれまでの華麗な経歴を考えれば手放しで賞賛できるものではない。本人はどんな思いで滑っているのだろうか。
それでも記者は、フィギュア界における本田真凛の“特別さ”をこう表現した。
「たしかに、大会での成績が出なくなってからはアンチの声も目立つようになりました。メディア露出もスポンサー契約もダントツですから、嫉妬も含まれているのでしょう。でも真凛は数少ない、フィギュアスケートの本質を伝えてくれる選手じゃないですか」
その言葉の真意をひもとく前に、まずは彼女のキャリアを振り返ろう。本田真凛は日本フィギュアスケートの将来を嘱望された選手だった。
中学2年生だった2016年に世界ジュニア選手権を優勝し、翌年は2位。2位とはいっても負けた相手は次のシーズンの平昌オリンピックで金メダルを獲得するアリーナ・ザギトワだから、その価値は極めて高い。