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「2000円の店に来て偉そうにするんじゃないよ!」日本のおじさんたちを“慰め続けた”フィリピン人ホステスが明かす“日本人”への思い

『日本の異国』より #1

2021/11/16

日本人は困ったときに助けてくれる

 25年もの間、日本の移り変わりを見てきたアニーさんにとっては、いまの日本の若い世代はずいぶんとわがままに、躾けられていないように映る。早朝の客層である水商売の若者たちが、親のような年齢のフィリピン人ホステスたちに乱暴な言葉を吐くことも珍しくはない。横柄で、マナーも知らない。そんな若者たちを、アニーさんは本気で叱り飛ばす。

「私にも息子がいます。息子が年上の人に対して失礼な態度を取ったら、ぜったいに怒るよ。親の恥だもん。だからお客さんだって誰だって、間違っていると思ったら叱ります。2000円の店に来て偉そうにするんじゃないよ! って(笑)」

 来日した当初、言葉は悪いが正論を叩き込んでくれた足立区のおじさんたちの心意気を、彼女は受け継いでいるのだ。

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 だから、いまの時代の「叱れない、怒れない日本人」がもどかしい。フィリピンでは人の子でも間違ったことをすれば叱る文化がまだある。日本人も、もっと怒らないとダメだと感じている。

 それでも日本は安全で、日本人は困ったときには必ず助けてくれる、相談には真剣に耳を傾けてくれるという。

「前に店が停電になったことがあったの。飲みに来ていたお客さんが『カリンが困っている』といろんな人に連絡をしてくれて情報が回っていって、私はなにもしていないのに気がついたら電気屋さんが現れて修理してくれて、なんてこともあった。日本人は一度仲良くなると、本当に親身にしてくれるね」

 アニーさんの長男にはいま子供がいる。つまり孫だ。「治安のいい、教育のしっかりしている日本で孫は育ってほしい」というが、本人は「死ぬときはフィリピンがいい。でも身体の動くうちは日本で暮らしたいね」と笑う。

 真っ昼間からフィリピーナの歌と、明るい声とが響く「カリン」。今日も彼女たちの笑顔に励まされに、日本人たちが扉を開ける。

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日本の異国

室橋裕和

晶文社

2019年5月23日 発売

「2000円の店に来て偉そうにするんじゃないよ!」日本のおじさんたちを“慰め続けた”フィリピン人ホステスが明かす“日本人”への思い

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