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5000人の居住者のうち半数以上が外国人…埼玉の“憧れの住宅地”に数多くの“中国人”が押し寄せた現状を徹底ルポ

『日本の異国』より #2

2021/11/16
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 竹ノ塚リトル・マニラ、ヤシオスタン、大和市いちょう団地、茗荷谷シーク寺院、東京ジャーミィ、西川口中国人コミュニティ……。海外からの日本移住者が増加するに伴い、彼らは日本のあちこちに地域に根づいたコミュニティを構築している。

 一方で、私たちがそうした人々の生活実態を知る機会はほとんどない。彼らはなぜ日本に移住し、どのようなことを考えて日々を過ごしているのだろうか。ここでは、フリーライターの室橋裕和氏の著書『日本の異国』(晶文社)の一部を抜粋。私たちの知らない「在日外国人」の現状に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

※内容は2019年5月書籍刊行当時の取材によるものです。

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油条(揚げパン)が売られる街角

 JR京浜東北線、西川口駅。

 電車を降りて、改札を出る。見渡してみるが、ウワサほどではない。「ニューチャイナタウン」「中国人に支配された街」なんて大手マスコミは言うが、駅周辺に広がっているのは典型的な都下のベッドタウン。味気ないチェーン店のレストランや居酒屋、マンションが立ち並ぶ。首都圏のどこにでもある、一見するとコピペされたような街だった。

 この「表情のなさ」こそ、埼玉県だなあと思う。僕の実家も、西川口と同じ埼玉にある。やっぱり東京に通勤・通学する人たちで構成される、新興住宅地が多い街だ。居住者は生活のかなりの部分を東京で過ごすので、どうにも愛郷心の育ちにくい環境なのだ。

 西川口もやはり、そんな街なのだろうか……と思って駅ビルをうろうろしていると、惣菜コーナーの一角に小吃店を発見する。中華のスナックといったところだろうか。焼き小龍包はともかく、中国人の朝食に欠かせない油条(揚げパン)は、日本のそこらの中華屋ではなかなか見ない。傍らで売られている豆漿(中国風の豆乳)とともに食べれば、まさに中国の街角。ニラレバ、エビチリの世界とはちょっと違うのだ。よくよく聞いてみれば、店員も客も中国語で会話をしていた。

写真はイメージです ©iStock.com

 駅を出てみる。西口だ。

 商業ビルを彩るネオン……レストラン、飲み屋、マッサージ店、銀行、コンビニ、病院、金貸し……などの中に、ちらほらと漢字オンリーで日本語の併記もなく、なんだかよくわからない物件が点在している。「网咖」とはなんだろうか。飯店、餐庁はレストランだろうが、その前の漢字がさっぱり読めない。どれもハデな電飾やら堂々たる毛筆やらでアピールしており、異質である。駅前にあるのはほぼすべて日本語の看板なのだが、その中でもけっこう目立つ。