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中華街ではなく「中国人が生活する街」

 さらに歩いてみると、不動産屋には「外国籍OK!」との貼り紙。飲み屋やラーメン屋がつらなり、ときおりエッチなお店も散見する商業ビルの森に入っていけば、中華の濃度はぐっと濃くなる。中華食堂や食材店がちらほら点在する。メニューを見てもやっぱり日本語併記がないところも多い。しかもそのたたずまいは質実剛健、おしゃれな装いなんかいっさいないという店もあり、アジア慣れしていない日本人ではなかなか入りづらかろう。

 とはいえ、テレビでよく取り上げられているような「ガチの中華街」というわけではない。横浜や神戸のような街並みを想像してやって来ると、肩透かしにあうだろう。ここは観光地ではなく、あくまで「中国人が生活する街」なのだ。そのための機能が、街の各所に散らばっている。目に付くのはレストランや食材店だが、ほかにもカラオケ、ネットカフェなどがある。さきほどの「网咖」はネットカフェのことだったのだ。

 そんな店が固まって看板を出しているビルもあるにはあるが少数だ。テレビや雑誌はそういう「絵になる」場所だけを切り取って撮るから、西川口全体がもはや中国語が氾濫する中華ワールドなのだと誤解されてしまいがちだが、そうではない。あくまで主体は日本人だし、日本の店が圧倒的だ。その中に、中国人の店がぽつぽつと、よく見ればけっこうあるんだなあ……という印象だ。

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 が、近年、明らかにその数は増えている。街角でも確かに中国語がよく聞こえてくる。

 なぜ、いま西川口に中国人は増えているのだろうか。これには諸説ある。

 西口の食材店「バンコク・ストア」を切り盛りするソムニさんは「私が来たばかりのころは、東南アジアの人が多かったね」という。店を構えて26年、来日38年という大ベテランである。ソムニさんは内戦を逃れてきたラオス難民だった。だからこそ店名にもバンコクを謳い、タイやラオスなどの食材を扱ってきたのだ。しかしいまでは、ほぼすべてが中国の食材である。冷凍水餃子、ピータン、紹興酒、胡麻団子、ザーサイ、火鍋の素、中国のジュースや菓子、干し肉、唐辛子、臭豆腐、麻辣湯……狭いスペースにびっしりと商品が並ぶ「ドンキ」的な店構えがたまらない。アジア好きにとってはほとんどテーマパークである。