文春オンライン

5000人の居住者のうち半数以上が外国人…埼玉の“憧れの住宅地”に数多くの“中国人”が押し寄せた現状を徹底ルポ

『日本の異国』より #2

2021/11/16
note

日本人よりも中国人のほうが多い団地

 外国人と日本人のコミュニケーションの最前線ともいえる場所がある。西川口の隣駅、蕨だ。駅から5分ほどの場所にあるマンモス団地・芝園団地は、ついに人口比で中国人が日本人を上回った。およそ5000人の居住者のうち、半数以上が外国人である。そのほとんどは中国人だ。

 これまた「中国人に乗っ取られた団地」として、よくメディアでもセンセーショナルな取り上げ方をされている。

 鵜呑みにしたわけではないが、ちょっと警戒しつつ、実際に訪れると、まるでスラムであるかのようなネット上の悪評とはほど遠く、整然としている。ただやはり、ゴミ捨て場に放置された粗大ゴミは気になるものだ。これは、僕の住んでいる大久保でも同様なのだが、引越しや片づけなどの際に出たタンスやら冷蔵庫やらソファーやら布団に至るまで、ぽいぽい捨ててしまうのである。粗大ゴミの処理にはまずネットや電話で役所に申し込み、コンビニなどで大きさや品目に応じたチケットを買って添付する必要がある。それを知らない外国人、知っていても面倒に思う外国人は多い。我が大久保ほどではないが芝園でも、そんな光景が見られた。

ADVERTISEMENT

 西川口と同じように、ここもまた中華系のレストランや食材店、美容室、中国語教室までもが並ぶ。日本語の制服を着ているが中国語で笑いあっている女子高生、ベビーカーを押す中国人のママさん。若い世代が多いのだ。

静かな老後のはずが…まさかの外国人の海

 一方で日本人はお年寄りが目立つ。進む少子高齢化によって、小学校も中学校も廃校になっている地域なのだ。しかし団地内にはおもに中国人を対象とした託児所もある。

 1978年に完成した芝園団地は、その当時では「憧れ」の存在だったという。入居倍率は70倍だったのだ。駅に近く、東京までのアクセスがよく、設備もいい。住宅地としても発展しつつあったこの街に、ファミリー層が移り住んできた。その彼らがいま、年老いてきている。静かな老後を送ろうと思っていたところに、まさかの外国人の海なのだ。変化を嫌う高齢者にはきついかもしれない。

 

 ゴミ捨て場、掲示板、公民館の案内、すべて日本語と中国語併記だ。騒音やゴミ出しについてはそれこそ執拗に、重ねて注意書きが躍る。

 団地のコミュニティスペースともなっているのはスーパーマーケット前の広場だ。すぐそばにはやはり中国の食材店とレストランが並ぶ。夕暮れどきだった。中国人のお母さんたちが立ち話をする傍らで、子供たちが声を上げて走り回る。その姿は、なんだか昔の商店街のようだと思った。僕も昔はこうやって母親の買い物についていっては、弟と騒ぎまくったものだ。僕にとっては決して「騒音」ではなかった生活音だが、近くの部屋で暮らしている人にとってはそんな生ぬるいことを言ってはいられないのかもしれない。近くの柱には「この広場での話声に関する苦情が寄せられています」と貼り紙があった。

【前編を読む】「2000円の店に来て偉そうにするんじゃないよ!」日本のおじさんたちを“慰め続けた”フィリピン人ホステスが明かす“日本人”への思い

日本の異国

室橋裕和

晶文社

2019年5月23日 発売

5000人の居住者のうち半数以上が外国人…埼玉の“憧れの住宅地”に数多くの“中国人”が押し寄せた現状を徹底ルポ

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー