一掃された風俗街の空き部屋に
しかし西川口にはびこっていたのは、そんな許可なんぞ無視している違法店ばかり。「本サロ」と呼ばれていた。そのアナーキーなスタイルはいつしか「NK流」と称されるようになり、格安でヤレると男たちが殺到、ネットや雑誌などでも取り上げられるようになる。
が、目立てば叩かれるのは世の常というもので、警察が腰を上げる。そして石原慎太郎が都知事だった頃に、2004年からはじめた歌舞伎町の浄化作戦はここ埼玉にも波及する。西川口でも違法な店はいっせいに姿を消したというわけだ。
結果、西川口は空き店舗ばかりのさみしい街と成り果てた。浄化作戦が終わっても穢れた風俗街というイメージは拭えず、地価は下がったままだ。さらに、これだけマンションや団地が密集している街ですら、少子高齢化は進む。賃貸物件も、空き部屋ばかりになっていく。
そのすき間を埋めたのが、中国人だったのだ。
川口市の人口統計を見ると、ひと通り摘発が終わった2006年の在住中国人は6949人。この数字は毎年およそ1000人単位で増えていく。2009年に1万人を突破、2018年にはついに2万人となっている。
東京の職場に通う、ごく普通の会社員
彼らの多くは不法滞在でも中華マフィアでもない。ごく普通の会社員なのである。とくにIT関係が目立つが、それ以外にも多種多様な職種につき、働いている。日本にまず留学して、語学学校から専門学校や大学に進み、就職するケースが多いようだ。
就労先は都内だ。しかし東京の家賃は高い。独身ならそれもいいが、家族で住める物件だと、けっこうな額になる。だったら都内に住まなくてもいいじゃないか。荒川を越えて埼玉県に入るだけで、家賃も物価もぐっと安くなる。とくに西川口は、昔のイメージから家賃が安いようだ。その割に上野まで直通で30分もかからない。中華料理店の多い池袋へも、赤羽乗換えで25分だ……。
極めて合理的な考えをする中国人らしく、こんな理由で川口市に、とりわけ西川口に増えていったのだという説が一般的だ。
こうして西川口を「ベッドタウン」として住んでいる中国人は、日本人のサラリーマンとまったく同じように、大混雑する京浜東北線で都内に出て働く日々を送っているのだ。