「世の中の賛否は分かれましたが、矢野さんの論文掲載自体は決しておかしなことではないし、国民的な議論を巻き起こしたということでプラスに評価しています」

 新聞、テレビ、ネットと各方面で話題を呼んだ「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」(「文藝春秋」11月号掲載)。

 日本郵政社長の増田寛也氏は、建設官僚、岩手県知事、総務大臣を務めてきた「政と官」両方の経験者として、官僚のトップが議論を投げかけたことの意義を高く評価する。

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増田寛也氏(日本郵政社長)

「官僚が意見を公表することの是非についてですが、振り返ってみれば、私が総務大臣を務めていた2007年、08年頃には、事務次官にも定例の記者会見の場があり、官僚にも当たり前のように自分の意見を語る機会がありました。

 事務次官は、その官庁が受け持つ政策にずっと携わってトップに上り詰めた人ですから、当然、政策については熟知しています。事務的な観点から、政府が打ち出す政策の合理性や、過去との整合性などを説明する立場でもあります。そのため当時は、毎週月曜日と木曜日に開かれていた事務次官会議の後で、翌日閣議にかけられる内容を次官が整理して説明したり、記者の質問に答えたりする場が設けられていたのです」

「論文掲載にあたり、矢野さんは前財務大臣の麻生太郎さんに事前に了承を取り、そのことは現大臣の鈴木俊一さんにも伝えられていたそうです。少なくとも形式上は、すり合わせも済んでいたことになります。今は事務次官の会見の場もないし、そうした意見を国民に伝える場がないので、矢野さんは雑誌への寄稿というかたちを選んだのだと考えれば、それが批判される理由はもはやないと思います」