久保木被告に“歩み寄っていく”判決文
「判決は、まず量刑の説明から始まったのですが、それぞれの主張に対して、検察に軍配が上がったんです。裁判官は《犯行手段を選択し、自身の犯行が発覚しないように注意して各犯行に及んでおり、自身の行為が違法なものであることを認識しつつ、合理的に各犯行に及んでいる》として、《自閉スペクトラム症の特性がありうつ状態であったことを精神の障害とみるとしても被告人の行動制御能力が著しく減退はしていなかった》と説明しました。
これを聞いた司法記者の中には、慌てて法廷を出て本社に電話をし、『想定通り死刑になりそうです』と報告した人もいたようです」(別の司法担当記者)
しかしながら、判決文は久保木被告に歩み寄っていった。
自閉スペクトラム症の特性のある久保木被告については、《複数のことが同時に処理できない》《対人関係等の対応力に難がある》など《看護師に求められる資質に恵まれていなかった》。これを自覚していた久保木被告は、事件の起こる前年6月、母親に仕事を辞める相談をしたが《ボーナスが出るまでは続けたほうがよいのではないか》とアドバイスされ、辞める決断ができなかった。
そのような中で、《一時的な不安(死亡した患者の遺族対応)軽減を求めて担当する患者を消し去るという短絡的な発想にいたり犯行を繰り返した》。《このような動機形成過程には被告人の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、被告人に酌むべき事情といえる》としたのだ。
“久保木寄り”の判決文に傍聴席は動揺
判決文が久保木被告寄りになっていくにつれ、傍聴席にも動揺の空気が流れだした。そんななか、冒頭のように無期懲役の判決が下されたのだ。
「しかも裁判官は《被告人質問では償いの仕方がわからないと述べていた被告人が、最終陳述では「死んで償いたい」と述べ、前科前歴がなく更生の可能性も認められる》と指摘しました。だから《死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず、生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせることにより、償いをさせるとともに、更生の道を歩ませるのが相当であると判断した》と。
これではまるで、自分たちの裁判で久保木被告が更生への一歩を踏み出したからもう大丈夫、と言っているようです。正直、被告人質問から最終陳述のくだりは納得できません」(前出・社会部司法記者)
この社会部司法記者は「争点となっていた完全責任能力を認められたのに、なぜ死刑にならなかったのでしょうか」と首を傾げる。