「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」。今年話題になった森喜朗氏の発言だ。ジェンダーや差別の問題を考えるきっかけとなったこの言葉がもたらした日本の「変化」を、東京2020の組織委理事も務めた來田享子・中京大学スポーツ科学部教授と振り返る。
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組織委員会は日本全体で作り上げた伏魔殿
森氏が退任した後、後任として橋本聖子氏が組織委会長に就任。3月、組織委は新たに高橋尚子さんなど女性理事12人を起用する方針を決めた。來田さんもそのタイミングで理事として選任された。
――理事会はどんな雰囲気だったんですか?
「3月22日でしたっけ。最初の理事会で、追加の女性理事の皆さんがすっごく意見を言っていました。だから1時間半とか2時間とか会議が延びたんです。やっぱり長いんですよ(笑)」
――(笑)会議が盛り上がったということですね。そんなに意見が出たのに、誰が何を言ったのかあまり報道されなかったですね。ブラックボックスみたいに国民には何が話し合われているのか見えなかった。
「理事会では武藤(敏郎事務総長)さんも橋本さんもメモをとって、報告会見でもお話しされていた。結構オープンにしようという意識はあったと思いますよ。これね、私が理事になった時に組織委の担当者に言ったんですよ。私はオリンピック研究者としての立場があるから、批判的な見方は当然するし、いろんな角度から(メディアなどに)喋ると思いますよ。それについて理事会は止めますかって。
そうしたら『いや、特に今まで組織委員会として発言に制約を設けたことはありません』というお返事が返ってきたわけです。しかも『実はこの問い合わせ自体、來田さんが初めてです』って」
――え、どういうことですか。
「テレビの人にも組織委からこれは報じるなみたいなことを言われたかと聞いたら、そもそも確認していないって言うんですよね。つまりきっと理事たちは話さないだろうなというメディアの思い込みと、なんかいらんこと言って叩かれたら困るなという理事側の思いが巨大な忖度文化を作ったんだと思います」
――誰も止めてないのに。
「誰も止めていないのに、止めているかどうかすら確認しなかった、誰も」
――なるほど、そうだったんですね。
「だからね、日本の文化全体で作り上げた“伏魔殿”ですよ、組織委員会は」