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――新しい女性理事の皆さんがたくさん意見を言って、それは反映されたんですか。

「それが必ずしもそうではなくて。大会が目前に迫っている中で、できることにはどうしても限りがありました。取り入れたこともあったけど、正直すみません、無理ですという説明を組織委職員がしたこともありましたね」

日本の官僚はすぐ「やりましょう」とは言わない

――來田さんはジェンダー専門家として、どんな要望を出したのですか。

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「IOCが2018年にジェンダー平等についての報告書を出して25の提言をしています。その中で組織委が実現できるもの、あるいは今やっているということをまとめる、これまでできていないことを検証する。つまり自分たちの目標設定と評価軸を作ることを提案したわけです。

©JMPA

 ジェンダー平等が日本最大の課題だという認識を社会全体が持っているのだから、それに対して組織委がどう取り組んだのかという検証をきちんとしないのは、国民の視点からもありえないだろうと言って、とにかくジェンダー平等の報告書をちゃんと作る必要があると言いました」

――それは実現したのですか。

「事務方は仕事がいっぱいいっぱいで、すぐに返事をしないんですよ。日本の官僚はすぐ『やりましょう』とは言わない。上にあげて、やっていいと言われてから、やりましょうと言うので(笑)、めちゃくちゃ時間がかかるんです。

 で、しばらくしてから『ぜひやる方向にしたいということは言っています』という返事はありましたが、結局タイミングが遅すぎた。人的にも財源的にも資源が投じられない時期なので難しかったということですね。

 しかもいわゆる“上”が実際のどこなのか、最終的な責任の所在はみえない。まだ組織委の仕事は終わっていないから、大会を振り返る形でのジェンダー平等の報告書だけでも、なんとか作成できればと思っています」

――日本の政治と同じですね。それにしても取り組みが遅すぎます。

「遅すぎる。オリンピックの中でこれほど大事なムーブメントの要素を、なぜきちんと時間と金をかけてやってこなかったのか」

©JMPA

 近代オリンピックの創立者であるクーベルタン男爵はオリンピックを「理想的な人間とその人間がつくる理想的な社会を目指す社会的運動」であるとし、スポーツを通した理念の実現こそが五輪の意義であるとした。つまり、本来オリンピックとは単に勝ち負けを争うスポーツイベントではなく、オリンピック憲章にも「IOCは国別の世界ランキング表を作成してはならない」と書いてある(本記事末に注あり)。