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前倒しで返済していく「ローン繰上げ返済駅伝」がトレンド

 今回の全日本で、最近の戦術の傾向が見えてきました。

「繰上げ返済駅伝」。これが駅伝戦術のトレンドのひとつになるのではないかと思っています。

 ひと昔前であれば、東洋大の柏原竜二さんや山梨学院大学のメクボ・ジョブ・モグスのような、1区間で全てをひっくり返すゲームチェンジャーがいたものです。ところが、今の時代は全員のスピードが上がっていて、1人で全てをひっくり返すのは難しい。最終区間でどんなにごぼう抜きをしようが、トップに追いつかなければ負けは負けです。そして1つのミスをすると、リカバリーはとても難しい。だから最終区までになるべく負債が少なくなるよう、早め早めに前倒しで返済していく。これが「ローン繰上げ返済駅伝」です。

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 例えば全日本大学駅伝に滅法強かった駒澤大学はアンカーにエースの田澤廉選手を置くのがセオリーでした。実際、去年の全日本もその配置で優勝しています。ところが今回、最終区間の1つ前、7区に田澤選手を配置した。これは先に田澤選手に借金を繰上げ返済をしておいてもらい、最後はアンカーの花尾選手が貯金をキープして勝つという戦略でしょう。全日本大学駅伝のコース変更から4年目。それぞれの大学が戦術変更してきたことにも注目ですね。

駒澤大学 大八木監督

3区と6区で貯金を作ろうとした東京国際大学

「ローン繰上げ返済」の考え方は、東京国際大学にもみられました。

 普通であれば、優勝した出雲駅伝で最終区間を走ったスーパー留学生、イェゴン・ヴィンセント選手に再びアンカーを任せそうなものです。ところが起用されたのは序盤の3区。もう1人のエース丹所健選手もアンカーではなく、6区。

 この配置は3区のヴィンセント選手で出遅れの負債を一気に返済。その後、遅れたとしても、再び6区で返済をしてトップにたち、7、8区の選手は無理をすることなく、自分のペースで、そのまま上位でゴールするという戦略です。

 結果的にヴィンセント選手と丹所選手が作った貯金は切り崩してしまい、チャレンジ自体は失敗しました。だけどここにはもうひとつの意図が感じられます。それは箱根駅伝や次のシーズンに向けて、多くの選手に単独でトップを走る経験をしてもらうという意図です。トップで中継車のすぐ後ろを走るのが「人生初めてで緊張する」ではなく、「車が風除けになって意外と走りやすいよね」などとみんなにトップで走ることに慣れてもらいたいわけです。

 見ている方にも、東京国際大学がトップにいてもおかしくないと思わせれば余裕も出てくる。つまりここで上位校マインドを植え付けて、箱根で勝負しようとしているのです。それに気づいたとき、「うわ、東京国際こわっ!」と思いました。

 駒澤大、東京国際大に続いて「ローン繰上げ返済駅伝」戦術をとる大学はあるのか。箱根では戦術にも注目しましょう。