11月7日に行われた全日本大学駅伝は、駒澤大学の連覇で幕を閉じた。「今年の3大駅伝はどの大学が勝つのか誰も読めない」。駅伝マニア集団「EKIDEN News」の西本武司氏がそう指摘したように、今大会はトップが激しく入れ替わる大混戦となった。そのなかで西本氏は4つの大学、そしてシューズメーカーの戦いに注目したという。前編は「駒澤大学とアシックス」について。これを知っておけば、正月の箱根駅伝がもっと面白くなるはずだ。(全2回の1回め/続きを読む)
◆◆◆
アシックス、箱根で“着用率ゼロ”からの躍進
全日本大学駅伝の一番のニュースはアシックスの躍進です。
毎年箱根駅伝が終わると、どこよりも早いシューズ分析を文春オンラインで発表しているのですが、今年の箱根はアシックス着用選手がなんとゼロ。96パーセントの選手がナイキ。数年前までアシックスが“ランニングシューズ界の自民党”だったことを考えると衝撃的でした。「箱根アシックスゼロ」の衝撃は単なるスポーツニュースの枠をこえ、経済界にも波及。株価にも影響を及ぼしたとまで言われてますから、ただ事ではありません。
しかし、潮目がかわってきたのが、箱根駅伝予選会あたりから。色とりどりのナイキシューズにまぎれてアシックスのシューズが目撃されるようになってきたのです。そして全日本1区のスタートラインにならぶ27人の選手のうち3人がアシックスの新作厚底シューズ「メタスピード」を履いていました。
全日本大学駅伝を走った全選手の足元は確認できなかったのですが、テレビ観測と関係者へのヒアリングから25校200名(日本学連選抜と東海学連選抜は確認できず)の選手の足元分析が終了。200名の選手中、11名がアシックス「メタスピート」を着用していることが判明しました。興味深いのがアシックスのユニフォーム提供を受けている大学以外の選手たちが、「メタスピード」を履いていたことです。そこには駅伝との相性が見えてきます。
ナイキのシューズの唯一の欠点
陸上長距離界を席巻したナイキの「ヴェイパーフライ ネクストパーセント」、これは勢力図を一変させた素晴らしいシューズですが、実は駅伝においてはひとつ欠点があります。それはマラソンのために作られたシューズということ。
クッション性の良いソールと、反発性の高いカーボンプレートは、長い距離を、同じリズムで、一定のスピードで走るにはとても優れたシューズです。ところがマラソンと比べて距離の短い駅伝では競り合いやラストスパートなど、トラックレースのように小刻みに走るリズムを変えざるをえないときがある。このときヴェイパーフライのような厚底シューズは薄底に比べると切り返しが良くないのです。
アシックスにはソーティという駅伝向きの名作薄底シューズがありました。中高生が走る短い駅伝にはそのシューズはとても適していたし、競技人口も多い。それゆえにアシックスは切り返しの良さを捨てることができず、長らく厚底に手を出すタイミングを失ってしまった。その結果が箱根でのゼロだったわけです。
「箱根アシックスゼロ」の衝撃は出遅れた厚底シーンへの商品投入を一気に加速させることになりました。アシックスが培った駅伝シューズの切り返しの良さを厚底に持ち込むことに成功した。それがメタスピードというシューズなのです。
大きなポイントは反応の良さと安定性。この機能性の高さを実証したのが、優勝した駒澤大学です。