アディダス、ナイキ、アシックス…靴のストーリー
ゴールで悔しがる飯田選手をみて、2年前の全日本大学駅伝を思い出しました。あのときも飯田選手は8区アンカーでトップで襷をもらいながらも、東海大学の名取燎太選手に抜かれて、優勝を逃した経験があります。このとき飯田選手が履いていたのはアディダス、名取選手が履いていたのはヴェイパーフライでした。
その翌週。飯田選手は世田谷246ハーフマラソンに強行出場します。全日本のアンカーを走った選手が翌週、ハーフを走る。なんてことは普通ありませんが、よほど悔しかったのでしょう。そこで飯田選手はそれまで履いていたアディダスをヴェイパーフライに履き替えて見事優勝。全日本での負けを取り返すような走りをして箱根駅伝5区を好走します。駅伝ファンはそういう経緯を経て強くなっていき、青学のキャプテンとなった飯田選手の姿を見ていただけに、切ないものがありました。過去に全日本のアンカーで、「追う経験、追われる経験」をした選手は、未だに夢に出るそうなのです。
アディダスにナイキが勝ち、そのナイキにアシックスが勝つ…決して靴のせいだけではないでしょうが、僕には靴のストーリーもつながっているように思えて仕方がありません。
そのメタスピードですが、実は僕も買いました。これが市民ランナーにとっても本当にいい靴なんです。ヴェイパーフライ並みに跳ねる「スカイ」と、ピッチ走法向けの「エッジ」、両方のモデルを買ったのですが、僕のおすすめはエッジ。くるくると回転するように足が前に進むので、気付くと思った以上にスピードが出ている。あまりに良いシューズだったので、あんなに愛用していたヴェイパーフライは、息子にあげてしまったほどです(アシックスからは何ももらっていません。すべて自腹です。念のため)。
果たして箱根ではどのシューズを選ぶのか
ここまで聞くと、箱根駅伝でアシックスを履く選手がど~んと増えるんじゃないかと思うでしょうが、話はそう簡単ではありません。
今シーズンもコロナ禍で数々のロードレースが中止や延期になっています。つまり新しいシューズを実戦で試す場がないのです。練習とレースは別物です。いくら練習でフィーリングが良くてもレースペースで20kmを走るとなると、靴ずれやマメができるかもしれない。いきなり箱根の大舞台で、新しいシューズに切り替えるのは、選手たちにとって心理的障壁が大きいのです。
とはいえ、この全日本でメタスピードが勝負強いシューズであることは知れ渡りました。ゼロとなったアシックスがどこまで復活を遂げるのか、箱根でその答えが出るのが今から楽しみですね。
(後編に続く)
撮影/EKIDEN News 構成/林田順子(モオ)