浜田宏一氏による「国の借金はまだまだできる」の一部を公開します。(月刊「文藝春秋」2021年12月号より)
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財務省は、東大法学部出身者の多い役所らしく理屈をこねるのが上手な官庁です。私も内閣官房参与として官邸に行った際、彼らが政治家をうまく説得するようすを見てきました。矢野さんは一橋大学の経済学部ご卒業のようですが、あの論文には、法律家集団である財務省の性格がよく出ていると感じました。
「ショッピングや外食や旅行をしたくてうずうずしている消費者が多い」(だから国民は給付金など求めていない)と書くのは、自分の結論に都合のよい人間像を証拠もなく作りあげているだけです。こういったところにいかにも財務省らしいところが出ています
日本は『世界最悪の財政赤字国』ではない
経済は、理屈で勝っても、現実に合っていなければしようがない世界です。いくら政治家を説得できても、現実の経済が違ってしまったのでは話にならない。経済は、実際の人やモノの動きを事実として見つめる必要があり、ときに理屈では説明がつかない局面もある。日本が瀕死の借金国で、タイタニック号の運命にある、というのは単なるたとえ話であって事実と認めることはできません。
もちろん、現役の財務事務次官である矢野さんが「このままでは国家財政は破綻する」という論文を発表したことは、立派だったと思います。決定が下れば命令に服することを前提に、「勇気をもって意見具申せよ」という後藤田正晴さんの遺訓通り、あるべき国家財政のありようについて堂々と思うところを述べられた。霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます。ただし、論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません。
矢野さんは「わが国の財政赤字は過去最悪、どの先進国よりも劣悪」という現状認識に立って、「将来必ず財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかか」ると警告し、与野党によるバラマキ合戦を諫める。そして日本の財政を氷山に向かって突進するタイタニック号に喩え、近い将来、国家財政は破綻すると警告する。