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 ただ、この論文を貫く「暗黙の前提条件」と、「経済メカニズムの理解」の両面で、矢野論文には大きな問題があります。自民党政調会長の高市早苗氏が「馬鹿げた話」と批判したそうですが、もっともな指摘です。こうして話題になったことは、財務省に考えを改めてもらうよい機会ですから、私からは「3つの誤り」を指摘しておきたいと思います。

日本政府は金持ちである

 第1に、「日本は世界最悪の財政赤字国である」という認識は事実ではありません。

 矢野論文は、財政赤字の指標として、一般政府債務残高をGDPで割った数字が256.2%と先進各国の中でも突出して悪い、と強調しています。そして、この借金まみれの状況では、支出を切り詰めるか、増税を行う必要がある、と財務省の伝統的な主張を繰り返します。

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 財務省は「年収(経済規模)に比べて借金がどれだけあるか」という数字をよく用います。しかし、年収との比較だけで借金の重さを捉えるのは適切ではない。なぜならば、金融資産や実物資産があるならば、借金があっても、そのぶん実質的な借金は減るからです。

 国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない。試算に誤差はありえますが、「どの先進国よりも劣悪」という矢野氏の主張とは印象がだいぶ違います。

 政府の資産とは、例えば、東京・港区の1等地に立つ国際会議場「三田共用会議所」のような優良不動産。広大な国有林も、独立行政法人の保有になっている高速道路のようなインフラもある。道路は売却できる資産ではありませんが、将来にわたって通行料金が入ってくるので、この将来キャッシュフローを資産と捉えることができます。

「日本は瀕死の借金国」という宣伝には熱心な財務省ですが、主張と矛盾する分析には冷淡で、翻訳すらしない。IMFには、財務省の出向者もいるはずなのに、不都合な真実については目立たせない工夫をしているのでは、と勘ぐってしまいます。