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「キスシーンはギリギリOKかどうか」「iPhoneを登場人物が使ってはダメ」「連続殺人事件はNG」 中国映画界の細かすぎる“検閲のリアル”

「キスシーンはギリギリOKかどうか」「iPhoneを登場人物が使ってはダメ」「連続殺人事件はNG」 中国映画界の細かすぎる“検閲のリアル”

note

政治、宗教をはじめNGだらけ…中国の映画・ドラマにかかる規制

「絶対にNGなテーマとしては、政治です。役人の汚職や不倫などは基本的に検閲で引っかかります。宗教もNGテーマの一つで、宗教をテーマにするのはもちろん、登場人物の設定として特定の宗教を信仰している描写をしてもいけません。外交問題に絡んでいるのもダメです。例えばどこかの共和国と戦争しているとか、昔のハリウッド映画みたいにソ連を敵国にした映画などは生々しい問題なので絶対にNG。ウイグル族などの少数民族を登場させても引っかかりますね。性描写が激しいものも、もちろん規制の対象です。キスシーンもギリギリOKかどうか…。あとは、現在は無くなったようですが、かつては『連続殺人事件もNG』だという噂もありました。なぜなら『中国の警察は2人以上の被害者を出すほど無能ではないから』です(笑)」

 どういった作品が検閲に引っかかるのか尋ねると、Aさんはすらすらと淀みなく答えた。中国ではこういった表現が検閲に引っかかり、内容の変更、もしくはお蔵入りを余儀なくされるという。

主人公はホテルマンを務める 『シャン・チー/テン・リングスの伝説』公式HPより

中国の公的機関を巻き込む“裏技”とは?

 一方で、こういったテーマでも作品を作る「裏技」もあるという。 

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「検閲を担当する役所を味方につけるんです。たとえばこの夏大ヒットした『掃黒風暴』という政治家の汚職を糾弾する刑事ドラマでは、中央政法委員会(※公安や検察などを管轄する中国の公的機関)が監修として制作に入っていました。そのため、タブーとされている政治家の汚職を描くドラマを作ることができたのです」

本来はNGの政治家の汚職を糾弾する内容のドラマ『掃黒風暴』

 ただし、監修が付いたからといって安心はできない。待っているのは、微に入り細を穿つような厳しい監修だからだ。

「大きく分けて監修は2回です。脚本の時に1回と映像になった時に1回。脚本ではセリフの一字一句までチェックされて、国家を批判するような言葉の有無を見られます。あとは悪人の“社会的地位”も重要ですね。汚職をする政治家は基本的には副知事や副大臣といった『副』止まりでなくてはいけません。トップ・オブ・トップは善人でなくてはならない。映像も細かい小道具まで見られて、例えば『iPhoneを登場人物が使ってはダメ』なんていうのもありました」