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政治を扱った作品は「北京で検閲を受ける必要がある」

 では、何故あえて規制が厳しい北京で検閲に出す作品があるのだろうか? それは北京でしか検閲ができないテーマがあるからだとAさんは言う。

「分かりやすいのは『掃黒風暴』のような政治を扱った作品。これは公安の検閲を受ける必要があります。公安を管轄する中央政法委員会は北京にあるので、そうすると北京で検閲を受けなければなりません。このように、中央省庁が検閲に入る場合は、北京で検閲を受ける必要があるのです。

 最近では北京オリンピックが近いこともあって、スポーツ関連の映画やドラマが多く作られているのですが、その場合は国家体育総局(※中国のスポーツを管轄する機関)の検閲も受けます。そのため、これらの作品も国家体育総局がある北京で検閲を受けるのです。逆に普通の職場を舞台にした作品や学園もの、青春映画は北京で申請する必要が無いので、緩い地域の検閲を申請することが多いです。

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 他にも北京のテレビ局から独立した制作会社の場合には、コネクションがあるので北京の検閲を選ぶことも多い。当局側に知り合いがいるので、事前に検閲に引っかかりそうな部分を教えてもらい、申請を円滑に進めることができるからです」

自国映画のクオリティが上がっている中国

 長年、中国映画市場の中に身を置いていたAさん。ここ最近は中国映画のクオリティそのものの向上も感じているという。

「エンタメ映画はハリウッドに負けないクオリティを持っていると思います。韓国ドラマや映画は今、全世界でヒットしている。とても分かりやすく作られていてエンターテインメント性が高いからですが、個人的には中国の作品もクオリティは韓国に負けていないと思っています。ただ、前述のように検閲があるのと、1.3兆円もある国内市場でコストをまかなえてしまうので、どうしても作品が国内向きになってしまう。規制によってクリエイターの思い通りの作品が作れないのが非常に残念です。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』公式HPより

 また、国内で公開される海外映画の数も年々減っている印象です。中国では海外の映画を配給している会社は全部国営なんです。つまり、興行収入はすべて国の収入になるのです。民間なら様々な配給会社が色々な映画を買い付けると思いますが、中国ではそうはいかない。しっかり国内の需要が見込める作品しか公開されないのです。そうすると、ハリウッドの超大作なら興行収入を稼げるが、フランスやイタリアの映画を輸入しても多くの国民は『なにこれ? わけわからない』となって集客ができない。結果的に海外映画の本数自体が少なくなる。自国映画のクオリティが上がっている今、わざわざ外国映画を多く買う必要性が薄まっているのかもしれません」