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「キスシーンはギリギリOKかどうか」「iPhoneを登場人物が使ってはダメ」「連続殺人事件はNG」 中国映画界の細かすぎる“検閲のリアル”

「キスシーンはギリギリOKかどうか」「iPhoneを登場人物が使ってはダメ」「連続殺人事件はNG」 中国映画界の細かすぎる“検閲のリアル”

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脚本がOKでも、映像になった段階で検閲に引っかかることも

 脚本でOKが出たシーンでも、映像になった段階で検閲に引っかかることも珍しくないようで、大幅に場面をカットせざるを得ないことも珍しくないようだ。前出の『掃黒風暴』は全28話で放送されたが、撮影されたのは40話分だったとAさんは聞いているそうだ。

『掃黒風暴』で主演を務めるEXOのレイ 本人のインスタグラムより

「カットされたのは汚職の手口や具体的な内容の部分と言われています。お金のやり取りや愛人の存在・不倫の描写といった部分が削られたようです。汚職政治家を登場させてもいいのですが、あくまでそれに打ち勝つ正義を描かなくてはなりません。『掃黒風暴』は12話分もカットされたので、見ている人は『あれ? ここどうなったの』『この人間関係、おかしくない?』と不思議に思うシーンが出ていました。役者の口の動きとセリフがあっておらず、『アフレコでセリフを変えさせられたんだな…』と分かる場面もありました。脚本もよく、出演者の演技も素晴らしかっただけに惜しい作品です。

『掃黒風暴』の予告編より

 日本でも撮影の際に放送分より少し多めに撮ると思うのですが、中国では放送分の2.5~3倍ものイメージで撮影します。そこから検閲で削られていく分を逆算するんです。もう一回撮影するのはコストがかかりすぎますから。具体的には監督にとって『一番撮りたいバージョン』、『検閲にぎりぎり通るかもしれないバージョン』、そして『一番無難なバージョン』の3つを用意する。その中でどれが通るかというせめぎ合いですね」

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規制は明文化されていない?

 Aさんは次から次へと規制の実例を挙げていくが、こういった規制は明文化されていないという。では、いかにして制作者は検閲をクリアする企画を立てているのか。それは、あくまで「忖度」でしかないようだ。

「業界内のネットワークで規制に引っかかった表現を収集して『おそらくこれはだめ』『これは大丈夫』といったようにノウハウとして積み重ねています。

 明文化された決まりがないので、検閲の厳しさは地域によって違います。一番厳しいのは北京の検閲。これは政治の中心だから当然ですね。一方で比較的緩いのは湖南省。ここは内陸地域でリソースが少ない分、海外番組のフォーマットを使ってバカバカしいバラエティなどを作っています」