一方、ライバル校の麻布高校出身の大物官僚は、松永和夫元経産次官、奥原正明元農水次官などにとどまるが、近年、永田町に反旗を翻した前川喜平元文科次官、経産省出身の古賀茂明もOBだ。開成出身者には見当たらないタイプである。
政治家は、橋本龍太郎、福田康夫の元首相を筆頭に、与謝野馨、谷垣禎一、中川昭一、平沼赳夫など錚々たる大臣経験者を数多く輩出している。いずれも世襲政治家だ。
麻布と開成、違いはどこで生まれるのか
両校の違いはどこで生まれるのか。よく指摘されるのが入試内容だ。
通産省で勤務した経験のある東京大教授で政治学者の内山融(1985年)が語る。
「開成中・高の入試問題は基礎的なものが多く、与えられた課題を短い時間で解く能力が必要です。この点でも開成は官僚向きかもしれません」
中学受験塾の関係者が付け加える。
「開成は、幅広い分野から出題され、問題数も多い。また出題のクセがない一方で少しでもミスをすれば受かりません。一方、麻布は思考力が問われる記述式の問題が多く、出題内容が非常に特徴的です」
たとえば、麻布では「『ドラえもん』が優れた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい」(2013年理科)といった問題が出る。
開成では、いざ入学すると、受験対策を念頭に置いた授業ではなく、生徒の知的好奇心を深める教育が施されているという。
鳥取県知事の平井伸治(1980年)が懐かしそうに語る。
「教師にも開成出身の方が多く、名物教師がたくさんいらっしゃいました。たとえば中2の時、古文の授業は、半年間かけて『古今著聞集』だけを習いました。完全に先生の趣味ですよね(笑)。しばらくすると飽きてくるので、生徒は先生をおだてて『古今著聞集』の妖怪の話をリクエストする。先生はお化けの存在を信じているので、ずっとその話ばかり。このような感じで、先生が自由に授業をしているんですよ」
立憲民主党の衆議院議員、下条みつ(1974年)が「いわゆるがり勉タイプはいない」と語る。
「開成にはこれだけ勉強したよとアピールするような人はいなかった。それでいて自宅でしっかり勉強する。みんな切り替えが上手です。岸田さんの政治スタイルと似ているような気がします。裏方で我慢しながら勉強し、政務、党務を黙々とこなす。首相になれたのも、その頑張りが認められたからでしょう」
両校の校風の違いが顕著になるのが文化祭だという。
開成の生徒はきちんと制服を着用し、見学に来た小学生を優しく案内する。一方、麻布は校則がなく金髪やアロハシャツで迎え入れ、ハチャメチャな出し物を披露する。両校を訪れた小学生は、開成か麻布かどちらが自分に合っているか、自分の適性がなんとなく分かるのだという。
(文中敬称略、後編に続く)