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 すると、コーチが黄色いリーガルパッドと呼ばれるメモ用紙みたいなものを読み上げていく。

「相手の1番、調子がいいです。気をつけましょう。2番は新人で、あまりデータがありません。3番は昨日、ヒット2本打ってます」

 ずっと、この調子で、10分くらいで終わってしまった。

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 野村野球にどっぷり浸ってきた僕としては、あまりにいい加減なミーティングなので驚いてしまった。

日本の野球が外国に対して勝つために

 僕としては物足りなかったのだが、時間が経つにつれてだんだん分かってきたのは、アメリカの野球はとにかく早いカウントから勝負が決まるので、「配球」とか細かいことをあまり必要としないということだ。とにかく、ピッチャーは早めにストライクを取って、有利なカウントを作る。打者は、追い込まれる前に狙い球を打つ。

 力と力の勝負なので、細かいこだわりはない。

 こうした経験を通して、僕は野村野球が世界に通じるものだと感じるようになった。アメリカの選手や指導者から見たら、「そこまで考えなくても、野球はシンプルでいいんじゃないか」と言われそうではあるが、日本の野球が外国に対して勝つためには、こうしたこだわりが必要なのだ。

©文藝春秋

 たとえば、シートノック。日本では少年野球から練習に取り入れている方法だが、アメリカの選手はやり方さえ知らない。シートノックは優れた練習方法で、日本のプロ野球の選手たちが見せるダブルプレーの精密性や、外野から本塁、あるいは三塁への中継プレーの動きなどが洗練されていくのは、シートノックを繰り返していることが大きい。

 それにしても、1990年代に、アメリカからヤクルトに来た選手たちは、大変だっただろう。ちゃちゃっとしたミーティングしか知らないところに、いきなり1時間半も野球について考えなくてはいけなかったのだから。

野村野球の面白さは、どこにあったか?

 野村監督の下で野球をやる楽しみというのは、突き詰めると「勝つ楽しさ」にある。ただし、つらい。

 なぜなら、野村監督はものすごく高度なことをバッテリーに要求してくるので、ずっと考えていなければならず、野球をする楽しみというよりも、考えるつらさが先に来てしまうからだ。たとえば、こんな宿題を野村監督は出してきた。