野村監督は、ある意味で「世界一」
いまでも印象に残っているのは、
「フルカウントになった時、投手と打者、どっちが有利なのか考えてみよう」
という宿題が出された時だ。
一般的には、フルカウントで走者がいればゴーできるし、打者が有利かと思いがちだが、そうとばかりも言い切れない――というのが野村監督の考え方だった。
キャンプの夜、1時間以上、ひとつのカウントについて監督がいろいろと解説していく。僕は、どのカウントについても新鮮な気持ちで聞いていた。
シーズンに入っても、ミーティングは続いた。野村野球の真髄は、実際の試合に入るまでの準備にある。とにかく、カウントの研究をはじめ、勉強することが驚くほど多かった。予習・復習の宿題が出て、野球で起こり得る様々なシチュエーションについて考えを巡らせる。
野村監督は、ある意味で「世界一」だった。他球団のこと、他の監督のことは知らないけれど、試合開始前のミーティングを1時間から1時間半かけて行い、相手の打者・投手を丸裸にするなんてことは、世界中のどこでも行われていない。1990年代はビデオが普及した時代だから、映像を使いながら、監督が解説するだけでなく、投手・捕手陣がみんなであれやこれやとプランを考えていく。
10分で終わるミーティングに驚き
大学からプロに入って、こんなことまで考えている人がいるのかと本当に驚いた。野村監督は、野球のあらゆることを突き詰めて考えないと気が済まない人だったのだと思う。その意味で、野球をとことん愛した人だった。
そして、僕はアメリカに行った時に、「メジャーリーグではどんなミーティングをするんだろう?」と興味津々だったのだが、意外とあっさりしていた。毎試合、全体で話し合いをするようなことはなく、連戦が始まる初戦に選手が集まるのだが、ミーティングというよりも「確認」といった方がいいような集まりだった。
その日の先発は別として、リリーフ陣は試合前の練習が終わると、試合開始の1時間半前くらいにウェイトルームなどに集合して、ピッチングコーチからの話が始まる。
僕が驚いたのは、選手たちがミーティングだからといって肩肘張っているわけではなく、チキンを食べていたり、ジュースをがぶ飲みしていたり、選手によっては寝っ転がったりしながらコーチの話を聞いているのである。