初年度は投打が噛み合わず最下位に終わるも、2021年シーズンは投手の運用をはじめとしたさまざまな改革に着手・成功し、投手出身者として同チーム初のリーグ優勝を達成した高津臣吾監督。そんな同氏の戦略・戦術的発想には、現役時代にヤクルトの監督から受けた影響が大きいという。
ここでは、同氏が二軍監督時代に著した『二軍監督の仕事』(光文社新書)の一部を抜粋。名将・野村克也監督から学んだ“戦術的発想”について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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ヤクルトの監督から学んだこと
ここまで、二軍監督の仕事についていろいろと考えてきたけれど、僕自身、野村克也監督の影響を多分に受けているのは間違いないと改めて感じた。
日本・アメリカ・韓国・台湾でプレーしたが、戦略・戦術的な発想という意味では、「野村野球」が根っこにある。ヤクルトのスタッフの中にも、野村イズムに触れた指導者が多いので、話が通じるのが早いし、他球団で経験を積んだ指導者と話すと、考え方の違いが際立って面白い。
こうして、監督の考え方が次の世代へと受け継がれていくのだと思う。
僕は「野村野球」がすごく好きだ。
なぜなら、野村監督は野球の奥深さをとことん追求していたからである。「そこまで考えなくても、ええんちゃう?」と思うようなことも中にはあったが、あらゆる要素を考えて野球をするのが、僕には楽しかった。
野村監督の質問には、たとえばこんなものがあった。
「カウント0―0。投手と打者、どっちが有利だと思う?」
「野球のカウントには何種類あるか、知っとるか?」
これは意外に、気づかない選手が多い。指名された選手が少しでも考える素振りを見せると、
「そんなのも分からないで野球をやっとるのか。プロも甘くなったなあ」
とかボヤキながら、講義を進める。
野球ファンならご存知だと思うが、野球のカウントには0―0から3―2まで12種類ある。
そこで野村監督は、
「カウント0―0。投手と打者、どっちが有利だと思う? 一茂?」
などと、僕の3年先輩にあたる長嶋一茂さんを指名したりしていた。僕などは、「まだ投げてないっちゅうの」とツッコミを入れそうになっていた。