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 事件当時、中国人マフィアは、新宿にいる暴力団員の数を越えるまでに膨らんでいたのだ。

「金を払え、払わないと店を壊すぞ」と脅す中国人マフィアたち

 パリジェンヌの周りには、外国人が経営する飲食店も多かった。国際捜査課の捜査員たちは、このような店に独自ルートを作り、地元の捜査員よりディープな情報源を持っていたようだ。パリジェンヌの目と鼻の先にある店の外国人オーナーからの情報は、次のようなものだったと聞く。

「警察が沢山出てきてすごい人だ。これでは今日は商売にならない。中国人が殺ったみたいだと噂になっているよ。あのやくざ、死んだのか? やつらは朝方、ここからちょっと離れたMという店で喧嘩していたらしい」

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 事件の様子を見たかと聞く国際捜査課の捜査員に、外国人オーナーはこんな返事をしたという。

「銃声みたいな音が聞こえ、何だろうと外に出たら、客が一斉に店から飛び出してきた。やくざも中国人も韓国人もいたが、数人固まって飛び出してきたのは中国人だ。あれが犯人だったかもしれないが、拳銃は見なかった」

 歌舞伎町のクラブの中国人ホステスからは、こんな話が出たらしい。

「派手にやったみたいで、今日は同伴でもあっちには行かないよう、店のママから電話があった。またここら辺の店に金を払え、払わないと店を壊すぞと脅す中国人マフィアたちが、やったんじゃないかって。みんな、あいつらは大嫌い。同じ中国人から金をむしり取るから」

着手するのはどの部署が中心となるのか

 事件の数時間後、国際捜査課では捜査員が集めてきた情報から、事件の概要が見えてきた。騒動を起こしたとされるスナックの情報が得られた事が大きかったのだ。

「カラオケをめぐるささいな言い合いから起きたいさかいの決着を話し合いでつけることにして、パリジェンヌに集まったが、和解することなく決裂。当時の歌舞伎町の状況を考えれば、当事者双方だけで話し合うなど土台、無茶な話だ。勢いづいていた血の気の多い中国人マフィアらが、暴力団幹部らをその場で弾いた、というのが事件のいきさつだった」(警察関係者B)

 その日の深夜、捜査関係者らが新宿署の講堂に集まった。地元新宿署の捜査員に加え、警視庁の捜査一課、捜査四課、公安部、そして国際捜査課。各部署の幹部たちが、一つの事件で一堂に会することは滅多にない。

「緊迫したすごい雰囲気だった」と警察関係者Cも当時を振り返る。

 着手するのはどの部署が中心となるのか、それを決めなければ本格捜査は始まらない。そこを間違えると事件解決は困難になるともいわれている。日本人の犯行であれば捜査一課が担当し、暴力団同士の抗争であれば捜査四課、犯人が右翼や左翼に属しているとなれば公安部、外国籍を有する者が犯人であれば国際捜査課の担当となるからだ。