「あの頃、中国人マフィアたちは、暴力団に代わって自分たちが東洋一の繁華街、歌舞伎町を取れると思っていたのだろう。だけどそれは、やくざの表面しか知らなかったからだ。やくざは、暴力団の顔を隠しフロント企業をいくつも持ち、ただ暴れるだけではダメだということを十分に知っていた。根なし草の中国人マフィアらが敵うはずがない。
中国人がいくら銃器をもっているといっても、当時のやくざは、どこにどれくらい武器を隠して持っているのかわからなかった。彼らが本気になれば、あちこちから拳銃やら何やら相当の数が出てきた」
組織犯罪対策部を設置
事件が起きた数日後、中国人マフィアと関係がある飲食店で異臭騒ぎが発生、暴力団員の犯行と見られている。さらに幹部を殺された住吉会幸平一家の組員が、中国残留孤児3世で犯人らの運転手役であった男性を拉致し、刃物で刺殺。新宿区上落合の路上に遺体を遺棄している。この事件で組員3人が逮捕されたが、パリジェンヌ事件の報復であったのはいうまでもない。その後、新宿に縄張りを持つ暴力団組織がまとまり、中国人排除に動いたとも聞く。
パリジェンヌ事件以降、歌舞伎町の状況は一変する。都内全域の外国人犯罪を主に扱う国際捜査課とは別に、1998年12月、警視庁は多発する新宿歌舞伎町周辺の外国人犯罪を取り締まるため「国際組織犯罪特別捜査隊」を設置、地域集中型の組織が捜査を行っていた。
警視庁はこの2つの組織を移行、再編し、2003年4月に「組織犯罪対策部」を新設。都内全域において凶悪化する中国人マフィアらによる組織的な犯罪、イラン人の麻薬密売、韓国人や中国人による窃盗団などの犯罪の増加に対処し、情報を一本化して総合的な対策をとるため組織犯罪対策部、通称「組対」を設置した。この組織は同時に、手口が巧妙でわかりにくくなりつつある暴力団の犯罪を捜査、摘発する目的も持っていた。
警視庁と入国管理局、東京都が一緒になった浄化作戦
東京入国管理局も外国人の取り締まりを徹底し、時を同じくして在留手続きを行わない、摘発専門の新宿出張所を発足させた。東京都では石原慎太郎都知事の旗振りのもと、歌舞伎町浄化作戦を警察と共に開始。これらの組織が連携し、風俗店などへ一斉捜査が行われた。
警察は外国人に次々と職務質問、いわゆる“職質”をかけ、不法滞在者や不法就労者を見つければ即、現行犯逮捕。歌舞伎町の凶悪犯罪は、暴力団よりも中国人を始めとする外国人の方が多かったため、この徹底浄化作戦は効果を上げた。検挙された外国人は1000人近くにのぼったという。歌舞伎町という歓楽地を飲み込もうとした中国人マフィアらの野望は叶わなかった。
警視庁と入国管理局、そして東京都が一緒になった浄化作戦により、新宿は“ある程度”の静けさを取り戻していった。