「ホテル富貴です~」
「あの…予約をしたいんですけど…」
「お日にちとお部屋番号のご希望は?」
思っていた以上にすんなり予約ができた。なんだ、普通のホテルと何ら変わらないじゃないか。 ホテル富貴が位置する京橋駅は、JR、京阪、地下鉄が乗り入れる交通の要衝だ。JR環状線を挟み、西側はおしゃれな雰囲気が漂い若者を中心に集まるビジネス街。一方東側はカラオケ、パチンコ、キャバレークラブ、立ち呑み、焼き肉、喫茶店などが並ぶ猥雑な歓楽街だ。呼び込みをする店員、酒を片手に歩く男性、関係をいぶかってしまうカップル…。
妖艶に光る紫色のネオン
駅から徒歩5分、騒がしい街並みを抜け、暗く静かな路地に入ると、煌々と光る入り口が見えてきた。ホテル富貴だ。
妖艶に光る紫色のネオンがなんとも美しい。もっと高いところにあるネオンは、いかにも昭和の雰囲気だ。今でも精一杯力を振り絞り、ひとつも消えずに光っている。
辺りを気にしながら、目隠しで覆われた入り口へと素早く入る。ラブホテルに入る瞬間は、たとえひとりでもなぜかドキドキするものだ。
カップル以外の利用客も…!
ホテル富貴は1977年創業以来、ずっと変わらないスタイルで営業を続けている。部屋によって料金は違うが、一年中平日料金で明朗会計。ひとりでも、また、追加料金を支払えば複数人でも利用ができる。最近はカップル以外に、撮影のロケ地として訪れる人も多いとか。週末ともなればほぼ満室になってしまうため、事前に電話予約するのが確実だ。
チェックイン後の外出は自由。食料を買ってから部屋で食べることもできるが、一歩外に出ればおいしいものに困らない立地も嬉しいポイントの一つだ。
ガガーッ。
無機質な音を立てながら自動扉が開く。シャンデリアの輝くロビーに入ると、ラブホテル特有の誰もいない異様な雰囲気が待ち受けていた。
「いらっしゃいませ~!」
姿こそ見えないが、明るく元気な女性の声に迎えられる。
ステンドグラスで奥が見えない窓口に近づき、予約した者だと伝えると先に精算を済ませた。手元しか見えないが、テキパキとした対応と感じのよさから、予約時に出た電話の相手と同じ人だとすぐにわかった。
写真撮影も快く許可をいただき、
「奥のエレベーターで3階までお願いします」
カッチカッチと光る誘導灯に導かれるがまま、すでに待っているエレベーターに乗り込む。廊下には同じ扉がいくつも並んでいるが、扉のランプがつくおかげで迷うことなく部屋へと到着した。
今回予約したのは302号室「江戸」。部屋番号の下にはその部屋のテーマともいうべき名前がついている。