こだわりが詰まった室内装飾
部屋へと入ると目の前には、神殿のような高床式のベッドルームが広がっていた。
ベッドの周りには敷石や灯籠が置かれ、小さな日本庭園が取り囲んでいる。階段を上がりベッドから部屋を眺めると、まるで殿様になった気分だ。フカフカのダブルベッドにひとりで寝られるのか。考えただけで頬がゆるむ。ベッドにゴロンと横たわると、天井にはゆるいタッチで描かれた春画が飾られていた。ちょっとした遊び心がおもしろい。
部屋には冷暖房の他、冷蔵庫や扇風機、浴衣にタオル、アメニティも一通り揃っており申し分ない。部屋の隅には昔ながらの三面鏡も置かれている。
光をふんだんに取り入れた明るくて広いジャグジーつきの浴室。
蛇口をひねると、肌がしっとりなめらかになるといわれているラドン泉が出てくる。水回りや設備など、傷んだり壊れたりしたものは直され、ドライヤーなど電化製品は新しいものが用意されている。
部屋の中を存分に楽しんだあとは、ホテル内を探検するとしよう。廊下は独特なデザインが施された本革の壁が見ものだ。
螺旋階段のある吹き抜け、豪華なシャンデリア、おしゃれな壁紙、赤い絨毯、細かい装飾…。
昭和から変わらないところは大切に手入れされながら、今でもキレイに保たれている。当時の雰囲気を今でも味わえることが、レトロ好きの私たちにとって本当にありがたい。
思えば、趣味が合わないパートナーを説得して連れてくるより、好きなものに好きなだけ集中できるひとりのほうが、よっぽど充実した時間が過ごせるではないか。ひとりで来て正解だった。扉の向こうでは今まさに各部屋で、親密なセッションが繰り広げられている。少し気が散るが、臨場感溢れるBGMを聞きながら私は、ひとり黙々とシャッターを切っていた。
ガガーッ。
「いらっしゃいませ~!」
お客さんが来館するたび、廊下の誘導灯がカチカチ光る。そのたびにこそっと身を潜め、息を殺しながら、廊下に人がいなくなるのをじっと待つ。ここで誰かと鉢合わせすることはご法度だ。ましてやこっちは女ひとり、カメラを抱えるただの不審者である。絶対、人には遭いたくない。
夢中で写真を撮っていると、ホテルのスタッフの方に声をかけられた。受付業務をしていた、感じのいい声の主だ。
「この部屋空いてるから撮っていかれたら? 今電気つけてあげる」「明日の朝なら空いた部屋に入っていいですよ」と、快諾いただいた。空いてない部屋は次回、またすぐ泊まりに来るのでその時にと伝えると「ほんとに~! 嬉しい~!」と喜んでくださった。おちゃめでかわいらしい人だ。
ホテル富貴の中でテーマのある部屋は、23室あるうちの8室だ。スタッフの方のご厚意に与り、空いていた部屋の中を見せてもらうことにした。