『個』のマラソンより企業名が前面に出される駅伝を重視
42.195kmを走るマラソンと、1区間が長くても20㎞程度のニューイヤー駅伝とでは、調整のトレーニングも異なり、駅伝1カ月前にマラソンを走ることにはリスクが生じることもある。
かつて早大競走部に在籍していた瀬古利彦は、福岡国際マラソンで2年時に日本人最高の5位、3、4年時には連覇を成し遂げ、その1カ月後の箱根駅伝でも2区で区間新記録を打ち立てている。学生はおろか実業団選手でも、これほどのハイパフォーマンスを連発できるのは稀有な例だ。
マラソンから駅伝への連戦が難しいとあれば、駅伝人気が高まるなか、陸上部をもつ企業が、『個』のマラソンよりも、企業名が前面に出される駅伝のほうを重視するのも仕方がないことだ。
つい先日には、1991年創部の八千代工業陸上競技部の活動休止が発表された。昨年の防府読売マラソンでは、同部の丸山竜也が、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)を破って優勝しているが、活動休止決定の直前にあった東日本実業団対抗駅伝で、ニューイヤー駅伝の出場権を逃していた。「将来を見据え、新たな領域に経営資源を振り向ける必要があることから」が活動休止の理由だが、駅伝の成績と無関係ではなかっただろう。もちろん、ニューイヤー駅伝の切符を逃す以前から検討されていたとは思うが――。
来年、そして3年後をも見据えた重要な一戦
12月5日、最後の福岡国際マラソンの号砲が鳴る。
今年2月、最後のびわ湖毎日マラソンは高速レースとなり、鈴木健吾(富士通)が2時間4分56秒の日本記録を樹立し、大会のラストに華を添えた。
今回の福岡国際マラソンは、新型コロナ禍の開催とあって、招待選手は国内のみとなった。だが、元日本記録保持者の設楽悠太(Honda)や、東京五輪男子マラソン補欠の大塚祥平(九電工)ら、2時間6分台、7分台の自己記録を持つ選手が数多く出場する。福岡国際はもともと高速コースとして知られているだけに、最後の大会では記録にも期待したい。
ラストレースにもかかわらず、来年のオレゴン世界選手権の代表選考がかかっており、24年パリ五輪代表選考会のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC、23年秋に開催)に出場するための指定競技会にもなっている。参加する選手たちにとってはこれまで同様、来年、そして3年後をも見据えた重要な一戦となる。
願わくは、後世に残る名勝負が見たい。