数多くの名ランナーを輩出した伝統ある大会が、またひとつ終わりを迎えようとしている。

 男子のエリートレースである、びわ湖毎日マラソンが、今年2月28日の第76回大会を最後に終了したばかりだったが、続いて福岡国際マラソンも今年12月5日の第75回大会で幕を閉じることが決まっている。

 スポーツによる戦後の復興の礎となり、スポーツ振興に貢献してきた2つのマラソン大会が、皮肉なことに、東京オリンピックが開催された年に、立て続けに姿を消すことになろうとは…。スポーツを取り巻く状況が大きく変わろうとしている潮目なのかもしれない。

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瀬古利彦と宗兄弟の福岡国際でのデッドヒートは往年のマラソンファンの記憶に残っている ©AFLO

マラソンの主流はエリートから市民に移っている

 福岡国際マラソンでは、これまでに世界最高記録が2度、日本最高記録が8度も誕生している。1967年に、デレク・クレイトン(オーストラリア)によって、世界で初めて2時間10分の壁が破られたのもこの大会だった。

 2020年には陸上競技の発展に貢献したことが評価され、世界陸連から陸上の世界遺産「ヘリテージプラーク」を贈られたばかり。日本の大会では箱根駅伝に続き、2例目だった。世界的な評価を受けているのにもかかわらず、終了の決定がなされたのは、本当に残念でならない。

 大会終了の決定は、財政面など大会運営状況が主な理由だという。ただ、もちろん様々な観点から判断されたことが予想される。

 エリートレースの終了は、昨今のマラソン事情の表れでもある。

「世界のマラソンの主流はエリートから市民に移っている。エリートだけのマラソンは存続が難しくなってきた」

 3月のオンライン会見で、日本陸連の尾縣貢専務理事(当時、現会長)はこのように話した。

市民参加型の大型大会が人気

 実際、出場権自体がプレミアムチケットと化している人気大会の東京マラソンや名古屋ウィメンズマラソンは、エリートランナーと市民ランナーとが同じコースを一緒に走れる大規模な都市型マラソンだ。

東京マラソンのスタート付近には多くの市民ランナーの姿が ©文藝春秋

 海外に目を向けても、世界のマラソン大会のトップであるアボット・ワールドマラソンメジャーズの6つのマラソン大会(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティマラソン)を筆頭に、大都市で開催される人気マラソン大会の多くが、市民参加型の大型大会となっている。

 そもそも、30000人超が参加する東京マラソンも以前はエリートランナーのみの東京国際マラソンと東京国際女子マラソンが開催されていた。それらの大会と市民レースとが統合されて2007年にスタートした格好だ。