いまやすっかり日本の正月の風物詩になった箱根駅伝。

 来年も20校が参加するが、それに加えて「関東学生連合」チームが結成される。これは予選会を突破できなかった学校の中から、予選会で成績上位に入った選手の中で、一定の条件を満たした選手が選出される。

ランナーでありながら、研究者の卵

 そして、今回のチームの中には異色の経歴を持つ選手がいる。

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 古川大晃。所属は東京大学大学院、D1年。

 Dとは博士課程のことを指すが、古川は10月23日に行われた箱根駅伝予選会で、1時間4分10秒で88位に入り、連合チームの一員に選ばれたのだ。

©文藝春秋

 博士課程にいることからも分かるように、26歳の古川はランナーでありながら、研究者の卵でもあるわけだ。そして、走ることと研究テーマは分かちがたく結びついている。

「これまで土台に置いてきたのは、自分が走ることで湧いてきた様々な疑問を研究によって解消したいということなんです」

 古川が大学の学部生時代に疑問に思っていたのは、「どうして、人のうしろを走っていると楽に感じるのだろう?」ということだ。

 中長距離を走ったことのある人なら分かるはずだ。あるいは、自転車のロードレースの経験がある人も分かるかもしれない。

 単独で走っているよりも、誰かの後ろを走っている方が圧倒的に楽で、力を温存できるのだ。古川はその疑問をテーマへと昇華させ、「追尾走」の研究を始めた。

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国内のレースを研究の題材に論文を書いている

「以前から、後ろを走ることで空気抵抗を少なくできるという論文は存在しました。ただし、自分はそれだけではないような気がしていたんです。世界各地でダンスの文化がみられるように、人間は他者とテンポを合わせて運動する習性があるようです。他者と運動を『同期』させることで、苦痛を感じにくくなることがわかっていて、これが追尾走の効果にも関係しているのではないかと考えています」

 古川の研究テーマは長距離だけではなく、ランニング全般に及んでいる。

「いまは、短距離のレースで起きた『同期』について論文を書いています。ランナー同士のリズムが合って、高いパフォーマンスを発揮する場合があるのではないか? という仮説に基づいて研究を進めています。かつて、ピッチの速いタイソン・ゲイと、ストライドが大きいウサイン・ボルトの走りが同期し、タイムが伸びたという論文が発表されましたが、それを反証する論文もあったりするんですよ。いま、自分は国内のレースを研究の題材にしています」

 なぜ、これほどまでに「走ること」に魅せられているのだろうか?