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「東大院生初」の箱根路出場を目指す男の異色の人生 “博士の卵”はなぜ走ることに魅せられたのか?

2021/11/19
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ひょんなことから巡ってきた箱根駅伝へのチャンス

 勝った以上に大きかったのは「理論→トレーニング→結果」の間に、ハッキリと相関関係があることを実証したことである。

「陸上競技のトレーニング理論では当たり前のことなんですが、走行距離とタイムの伸びには関連性があるんです。それを身をもって体感できたことが大きかったと思います」

 トラックでのタイムが伸びたことから、大学3年、4年時には全日本大学駅伝にも出場し、それぞれ5区区間12位、6区区間15位の成績を残している。

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©文藝春秋

「あのときばかりは、関東の学生との力の差を実感しました。トラックのタイムに比べて、ロードで高い力を発揮していて、そこに自分との差をハッキリと感じました。学部生の4年間は、ランナーとしての自分には何が足りないのかをより強く意識できた時間でしたね」

 この頃には研究者としての道を志すようになり、九州大学で修士、そして2021年に東京大学大学院へと進んだことで、箱根駅伝へのチャンスが巡ってきた。

現在は「時間があれば研究室にいる」生活

 コロナ禍のせいなのか、東大の駒場キャンパスは静かだ。

 安田講堂を模した時計台の正面を右に回っていくと研究室があり、その奥にはグラウンドがある。古川もランナーというより、研究者としての生活が基本だ。

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「いまは時間があれば研究室にいる感じです。朝8時から夜も9時、10時までは研究室にいることが多いですね。ただし、1日に90分から150分ほど、どこかで『陸上の時間』を確保するようにしています。そのうち週に2、3回は有効なトレーニング方法とされている高強度インターバルトレーニングをします。残りの日は代々木公園を走ったりして、距離を稼いでいる感じです」

 いそがしいために食事に時間をかけるわけにもいかず、自分でごはんを炊いておにぎりにして研究室に持っていき、学食でおかずだけを買って食べることも珍しくない。

「でも、初めての東京暮らしなので、楽しいですよ」

 今年の夏には友人とのつながりから、青山学院大学の夏合宿に参加させてもらった。