連載開始から37年を迎えるロングセラー料理漫画『味いちもんめ』。現在、新シリーズ『味いちもんめ 継ぎ味』として「ビッグコミックスペリオール」にて連載中ですが、主人公・伊橋が修業を積んだ料亭「藤村」に帰ってきたことからドラマが始まるこの作品が“原点回帰”と好評を得て、既刊単行本第1~7集が続々重版のヒットを記録しています。
すっかりシステマチックになった世の中に“味わい”を添え続けている『味いちもんめ 継ぎ味』を裏から支えているのは、東京は神保町にある割烹「花家」店主の金子司さん。作中に登場する職人技や料理のアイデア、様々なエピソードなど、あらゆる面で作品協力していますが、かつて確かに存在した『味いち』の世界は、和食業界から消えつつあると言います。金子さんに、その思いを聞きました。
(取材・構成/木下拓海)
しつけと称して包丁の峰で手を叩くシーンも
——『味いちもんめ』が35年前に始まった頃と比べて、和食の現場は変わりましたか?
金子 そりゃ変わりましたよ。今では海外で板前になってから日本に帰国する人もたくさんいますし、それに『味いち』にはよく従業員が裏の部屋で団らんしているシーンがありますよね? 今はあんな雰囲気はないですよ。仕事が終わったら早く帰るし、休憩時間の過ごし方もバラバラです。ただ、僕らの頃はあった。先輩がいつも料理の話をしてくれて、それを若い僕らが「は~っ」と耳を傾けて……。
——もう、そんな団らんシーンはないんですか。
金子 残念だけどね……。こないだ他の店で親方やってる子に「親父さんのやり方だと、今は若い人来ませんよ」って言われてしまいました(笑)。初めの頃の『味いち』では、しつけと称して包丁の峰で手を叩くシーンとか出てきたでしょ? 昔はそれは普通のことだったし、僕自身もよく叩かれたもんです。まあ、さすがにそれはもう、うちでもやらないけどさ。
仕事を盗もうと思ってたら、やっぱり耐えるしかない
——今だとパワハラってことになってしまいますね。
金子 僕の親方は「味」にとても厳しい人だったんですよ。僕らが作ったものは、親方が味見をしてからじゃないとお客さんに出せないんです。例えば、調理場で注文の入った茶碗蒸しを作るとしますよね?
——はい。