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依頼人との信頼関係を重視

 では、依頼人が信用できるかどうかを、弁護士はどういうところで判断するのか。

 第1のポイントは、本当のことを言ってくれるかどうかだ。事実を隠されたままでは弁護のしようがない。悪いことをしたならしたで、事実を言ってくれれば弁護の方法がある。

 三浦氏は事実を包み隠さずに話してくれたし、自身の女性関係も否定しなかった。永年にわたる三浦氏の弁護活動のなかで、彼に嘘をつかれた記憶は1度もない。嘘を言っているのではないかと疑ったこともない。互いの信頼関係のもとに、一貫した弁護方針を保つことができた。

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 私にも、依頼人が嘘を言ったために弁護方針を変えた経験がないわけではない。

 その依頼人は、詐欺の刑事事件で逮捕された。私は以前、この人の民事事件を担当して信頼していたので、「詐欺はやっていない」という言葉を信じて無罪を証明するために動いていた。ところが、起訴されて検察側の証拠が開示されると、どう考えても有罪と思えた。本人に問い質すと、「いや、じつは......」と嘘を言っていたことがわかった。

 私は争う方針を捨て、あとはひたすら情状酌量で執行猶予を狙う路線に切り替えた。

 第2のポイントは、弁護士の意見に依頼人が耳を傾けてくれるかどうかだ。

 ある刑事事件の弁護で、依頼人が私の意見をまったく聞かず、自分で勝手に決めた弁護方針に従わせようとしたことがあった。「そういうやり方はおかしいと思う」と言っても、とにかく自分の決めたようにやれと言う。

 どういう方向で裁判を戦っていくかは双方の話し合いになるが、法律の専門的なことは弁護人の意見をある程度聞いてくれないと、裁判を続けていくことさえ難しくなってしまう。ついに私は、これ以上一緒にやるのは無理だと判断し、辞任することとなった。

刑事被告人は圧倒的弱者

「多くの人は、報道によって作り上げられたイメージを鵜呑みにして、刑事被告人を「社会の敵」「悪人」とみなし、「悪い奴だから徹底的に叩き潰してしまえ」と乱暴に考えがちである。それは、刑事被告人になることの怖さを知らないからだと思う。

 刑事被告人というのは、圧倒的に弱い存在だ。

 刑事裁判では、検察には被告人を有罪だと主張できるだけの証拠が揃っているかどうか、被告人には検察の主張を覆すだけの証拠があるかどうかが問われる。これを「証拠裁判主義」という。