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「なぜあなたは好んでそういう悪人の弁護をするのか?」小沢一郎やカルロス・ゴーンらからも頼られる“無罪請負人”弘中弁護士が返した“意外な答え”とは

『生涯弁護人 事件ファイル1』より #1

2021/12/12
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来るものは拒まず、去るものは追わず

 とはいえ、三浦氏に対する当時の風は完全なアゲインストだったから、受任した時は「家族にどう説明しようか。反対されるかもしれないな」と、ちょっと思った。家族は何も言わなかったが、担当していた依頼人のなかには、「あんな奴の弁護をするならもう頼まん」などと言う人もいて、実際いくつかの仕事はキャンセルされた。それはそれで一つの判断である。しかし弁護士は自由だ。私は、「来るものは拒まず、去るものは追わず」の心境であった。

 ここで「ロス疑惑」事件を整理すると、報道で騒がれたのは、「千鶴子さん失踪事件」「殴打事件」「銃撃事件」の3つである。しかし、三浦氏は「千鶴子さん失踪事件」では逮捕も起訴もされなかった。

 ところが世間の人々は、立件もされていない千鶴子さんの失踪も含めて、三浦氏をクロだと思い込んだ。メディアがしきりに報じた彼の派手な女性関係をとらえて、「だらしのない人間だ、女性の敵だ」と悪しざまに言い、「こういう人間は平気で嘘をつくから信用できない。彼は『やっていない』と言っているが嘘に決まっている」という論法で犯人と決めつけた。

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写真はイメージです ©iStock.com

 だが、「ロス疑惑」事件の核心は、「三浦氏が一美さんを殴打しようとしたのか否か、殺害したのか否か」という一点である。女性関係など周辺の問題は「犯罪があったか、なかったか」とはまったく無関係なことである。

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