文春オンライン

2021/12/04

わざとポイントを外した議論をしているか、あえて触れていないだけなのでは

 それに対して、竹中平蔵さんは「生活保護や年金をなくすとは言ってない」と反論しているわけですが、所得税における累進課税の下のほうに給付ラインを作りベーシックインカムを実現するだけだとするならば、社会保険料や健康保険に対してベーシックインカムは何の改革オーダーにもならないことを意味します。単に担税力のない低所得者層への給付が最低限行われるだけで、これだけでは暮らせないことには変わりなく、生活が成り立たなければ生活保護がまだ残されると竹中さんが言うのならば、わざわざ税制を大幅にいじってベーシックインカムを検討する必要すらないだろという話になります。

 もちろん、そのような話は旧民主党の野田佳彦政権末期の「税と社会保障の一体改革」での自民党・公明党との三党合意のところで一定の議論をしているものであって、竹中平蔵さんはわざとポイントを外した議論をしているか、知っていてあえてそのあたりに触れていないだけなのではないかと思います。

 ベーシックインカムの議論はセーフティネットというよりは税制の問題です。これらは、若者の貧困よりも広くすべての稼ぎの悪い世帯についてのどうしようかという話なのですが、竹中平蔵さんは「(日本の若年層不足による労働力不足に対しては)移民を入れればいいんですよ」と言っています。

竹中平蔵氏「移民を受け入れればいいんですよ」~日本に移民政策は必要か【争点:少子化】
https://www.huffingtonpost.jp/2013/07/24/immigration_n_3642850.html

移民政策により若者の賃金水準は移民の皆さんと同等に安い方向へシフト

 人口が減れば経済を支える勤労世帯も減って経済が衰退してしまうので、少子化対策で移民を入れなければ日本の国威は維持できないという議論は、一面において理はあるのでしょう。他方で今度は移民の皆さんに仕事を奪われる日本人若者層が出現し、若者の賃金水準が移民の皆さんと同等に安い方向へシフトしてしまうことをも意味します。

 労働力不足なので、貴重な労働者である若者にもっとお金をかけて雇おうというところで、最低賃金以下で働いてくれる外国人技能実習生が10万人単位でやってくるのならば、外国人に比べてスキルも同程度で勤労意欲も低い日本人の若者を高い賃金を出して雇い教育する必要もなくなってしまいます。

 竹中平蔵さんは口先では若者の賃金を引き上げるのは最低賃金の問題だと論じていますが、おおむね全国平均900円台の最低賃金が仮に数十円引き上げられたところで、社会保険料を支払ったら手取りは月14万円ぐらいにしかなりません。そもそも、労働力が不足していて事業の継続性が大変だ、黒字倒産する企業も地方で増えていくかもしれないという状態で、最低賃金でないと仕事が見つからないという経済環境のほうが、本来は異常なのです。

 むしろ、若者の数が足りなくなり労働力がひっ迫しているのであれば、賃金を下げる圧力にしかならない移民の導入は少し控えて、人手が必要な企業が貴重な若者をきちんとした金額で遇することのできるよう、労働基準監督署を強化したり、高い賃金を払えない企業が廃業しやすくしたり、チャレンジ可能な税制を充実させて起業率を増やすと言った施策を行なうほうが、若者の賃金を引き上げるという意味では重要になるはずです。その代わり、若者が次々と都会に出て行ってしまうような魅力のない地方経済は、人を雇うことができなくなって一気に疲弊する可能性が高くなりますが。