俺たちの竹中平蔵さんがネットでまた叩かれているというので見物してきました。

 どうも東洋経済オンラインで「竹中平蔵は弱者切り捨てだ」と貼られたレッテルに竹中平蔵さんがそうじゃないと反論したら、ネット総出で「いや、お前は弱者切り捨てだ」と再び馬鹿にされる流れになっており、流れ落ちる涙を止めることができません。

 さすがに嫌われ過ぎな気がします。

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竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」ベーシックインカムは究極のセーフティーネット - 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/470801

 そもそも東洋経済が切り出した特集のテーマが「若者の貧困」について。そこに竹中平蔵さんを連れてきて格差の問題を喋らせたら「混ぜるな危険」であることは論を俟たないのですが、竹中さんの持論である「負の所得税」からのベーシックインカム論は担税力のない低所得者層対策の話であって、若者に限らないネタであることになぜツッコミを入れていないのかが不思議です。学費がなくてパパ活ラウンジにいる女性も、独身お一人様で50代に失業してまともな仕事が見つからないおじさんも、「世帯の所得水準が低い」という意味では同じラインですからね。負の所得税。

いわゆる「構造改革」の象徴と目されている竹中平蔵氏 ©文藝春秋

ベーシックインカムはフェア? 2つのツッコミどころ

 また、竹中平蔵さんは随所に「公務員ではなく民間に委託を」という議論を混ぜてきており、その民間で受託する事業者はすなわち竹中さんが会長をやっている淡路島に本社のあるパソナなんじゃないかという素敵な利益誘導の匂いもさせつつ、世界的には「民営化だから素晴らしい」という話ばかりではないという反論すらも、インタビュアーはしていないのが気になります。

 地方公務員が必要な業務をやろうにも人手が足りず、民間に委託して公共事業を切り盛りするのはいまや普通のことですが、これらの受注をしているのは竹中平蔵さんのパソナ筆頭にそれ方面の会社さんたちなので、公共事業の民営化の話をすると「お前らのことやがな」「また本性を隠して竹中平蔵が利益誘導か」って議論にはなりやすいので注意が必要ですね。みなさん、そんな罵声を投げては駄目ですよ。絶対に。

 ベーシックインカムはフェアだという話には二つのツッコミどころがあります。第一に、「負の所得税」は累進課税という伝統的な税負担のあり方の徴税と給付のラインが決まってるだけで、累進課税のような応能負担(稼ぎ出す能力のある人が、社会を支えるためのコストをより多く負担すること)がフェアだとするならば、能力のない人が給付という形で社会にぶら下がる形となる負の所得税もフェアであって、負の所得税と同じ税制の形態ならばベーシックインカムもフェアなはずだと言っているだけに過ぎません。竹中平蔵さんは「議論がない」「議論しよう」と言ってますが、そもそもそんな議論をする必要がないからしていなかっただけです。

 第二に、いま行われている年金基金の年金給付水準が下がったり、我が国のセーフティネットがこれから機能しなくなるかもしれないという社会保障の危機に関する問題を、別にベーシックインカムが解決してくれるというものではない、という点です。高齢者が増えて、彼らへの医療費や年金がこれから莫大にかかる話を、ベーシックインカムが何か上手いことをやってどうにかしてくれるわけではありません。社会保障を支える富も財源も保険料も原資も、ないものはないのです。

 そもそも、いまの公的年金は一部企業年金も含めて積み立てた保険者の財産権の一部であって、これをある日突然政権が「負の所得税を超えて社会保障全般をベーシックインカムに移行することにしたので、年金もこれに一本化しまーす」と言えば、国民の資産を政府が思い切り簒奪することになってしまうわけですよ。

 GPIFが抱えている基金の大きさだけでも186兆円(2020年度)あり、これをご破算にすることは大変な困難を伴います。

GPIF2020年度の運用状況
https://www.gpif.go.jp/operation/last-years-results.html